次期戦闘機の輸出に関する社説・コラム(2024年3月17日)

 
日本、英国、イタリアが共同で開発する次期戦闘機のイメージ(防衛省提供)
日本、英国、イタリアが共同で開発する次期戦闘機のイメージ(防衛省提供)
 
戦闘機輸出解禁 平和国家の信頼損なう(2024年3月17日『北海道新聞』-「社説」)

 自民、公明両党は、国際共同開発する防衛装備完成品の第三国輸出を容認することで合意した。これを受け政府は26日に防衛装備移転三原則の運用指針を改定する。
 対象は現在、英国、イタリアと開発する次期戦闘機に限定するという。運用指針改定の際に加え、実際の輸出時にも閣議決定する。
 岸田文雄首相は「二重の閣議決定で、より厳格なプロセスを経る」と強調した。
 だが、政府の安全保障政策は、これまでも与党の事前協議の追認を繰り返してきた。政権内の手続きを強化するだけでは「歯止め策」とは到底言えない。
 国権の最高機関である国会での議論を通じ、国民の監視を強化しなければならない。
 国際紛争を助長する恐れがある殺傷兵器の輸出制限は、平和国家の根幹をなす基本方針である。
 政府・与党だけの論議によるなし崩しの転換は認められない。
 首相は、日本が戦後築いてきた国際的な信用が失われかねないことを肝に銘じるべきだ。
 閣議決定のほかの条件としては輸出先について、不当な再輸出などを禁じる「防衛装備品・技術移転協定」の締結国に限定した。このうち「現に戦闘が行われている国」は除外するという。
 しかし、15カ国ある協定の締結国の中には、米仏など各地での実力行使を辞さない国もある。
 対象国が将来にわたって戦闘国にならない保証はないし、政府の選別も恣意(しい)的になりかねない。
 輸出を次期戦闘機に限る規定も閣議決定さえすれば解除できる仕組みだ。一度解禁してしまえば制御するのは容易ではない。
 そもそも政府・与党内からは、平和主義の理念をどう守るかについて、まともな憲法論議がほとんど聞こえてこなかった。
 政府は昨年、「現行ルールでも殺傷武器の輸出は可能」との新解釈を唐突に言い出した。
 過去に積み上げてきた原則をないがしろにする暴論だ。これ以上政府の独善や国会軽視がすぎれば法治国家とは言えない。
 自民党渡海紀三朗政調会長公明党との合意後、「国民の理解が深まったのは非常に良かった」と記者団に述べた。
 国民の間に根強い不安がある中で、慢心も甚だしい。
 次期戦闘機を巡っては、共同開発管理を担う国際機関を設立する条約案が国会で審議される。
 首相は輸出への反対意見にも耳を傾け、認識を改めるべきだ。
 
 
次期戦闘機の輸出を国際協調と抑止力の強化に(2024年3月17日『日本経済新聞』-「社説」)
 

 日本のあるべき安全保障の姿を国民的議論に発展させる契機としたい。自民、公明両党は日英伊3カ国が共同開発・生産する次期戦闘機の日本から第三国への輸出を解禁すると合意した。次期戦闘機は2035年の配備をめざす。

 現行制度では、国際共同開発する防衛装備の完成品の輸出先は開発のパートナー国のみ認めている。合意は武器輸出に抑制的だった基本方針の転換となるが、日本をとりまく厳しい安全保障の現実を直視すれば理解できる。

 合意は対象を次期戦闘機に限ったうえで、武器の適正管理などを定めた協定などを結ぶ国に絞る。第三国が日本からの武器で武力行使に及べば、紛争を助長するとの懸念を踏まえ、戦闘中の国は除く。輸出する際は案件ごとに閣議で決める一定の歯止めも設けた。

 次期戦闘機の輸出先を広げる効果は小さくない。生産数を増やせれば生産コストを下げられ、防衛産業の育成にもつながる。共同開発にあたり、日本は広い海域を防衛できる機体など自国の優先する性能を主張しやすくなる。

 英伊は調達価格を下げるため、日本による輸出ルールの見直しを期待していた。日本は平和国家の理念を守りつつ、地域安保の裾野を広げる努力は怠れない。

 国際共同開発は世界の流れであり、東南アジアなどへの輸出を通じて同盟国・友好国の仲間づくりを進めたい。国際協調は多様化する脅威への抑止力になる。

 そもそも22年末に英伊と共同開発を決めた時点で輸出の問題も取り上げておくべきだった。3カ国交渉が迫っているとして安保政策の根幹にかかわる決定が急ぎ足になった点は否めない。政府には見通しの甘さへの反省を求める。

防衛装備品を第三国に輸出すれば、供与された国の使い方によって日本も相手から狙われかねないリスクを排除できない。

 合意では、この先も与党協議を経て新たな輸出案件を追加できるが、なし崩しで進めてはならない。例えば、戦闘機やミサイルなど高い殺傷能力を持つ装備品については、諸外国の例も参考にしながら野党が求める国会の関与も話し合っていくべきだ。

 防衛装備品の輸出は原則を打ち立てるのが筋だ。例外措置を重ねるのは安保上の不安定要因になるだけでなく、企業も予見可能性が高まらないと投資しにくい。与野党で議論を深める必要がある。

 

防衛装備品の輸出 「次期戦闘機」だけなのか(2024年3月17日『産経新聞』-「主張」)

 

 国際共同開発の防衛装備品の第三国輸出をめぐり、自民、公明両党は日英伊3カ国が共同開発する次期戦闘機に限って認めることで合意した。

 岸田文雄首相が歯止め策を示し公明が評価して容認に転じた。

 次期戦闘機の輸出対象は「防衛装備品・技術移転協定」を結び、現に戦闘が行われていない国に限る。個別の案件ごとに与党の事前審査を経て閣議決定する。今回の合意を受け政府は防衛装備移転三原則の運用指針改定を閣議決定する。

 次期戦闘機の第三国輸出が可能になることを歓迎したい。望ましい安全保障環境創出のため積極的に実現したい。

 次期戦闘機は令和17年までの配備が目標だ。日本と移転協定を結んでいるのは現在15カ国でオーストラリア、インド、シンガポールインドネシアなどインド太平洋の国が多い。

 輸出を実現すれば、調達単価を低減できる。安全保障上の同志国を増やすことにもつながる。力による現状変更を志向する中国などへの抑止力が高まり、日本の守りに資する。

 ただし、与党合意には問題もある。殺傷力のある防衛装備品の輸出は平和国家日本の在り方に反するという誤った思い込みから、できるだけ抑制しようという発想が残っている点だ。

 次期戦闘機以外に国際共同開発の装備品輸出の必要性が生じれば、改めて与党協議を経て運用指針に加えるという。

 本来は、次期戦闘機に限らず一般的な原則として輸出解禁に踏み切るべきだった。煩雑な手続きを嫌って日本との共同開発をためらう国が現れれば、日本の平和と国益が損なわれる。

 現に戦闘をしていない国に限るのも疑問だ。実際に侵略され最も苦しんでいる国に救いの手を効果的に差し伸べることを禁じるつもりか。輸出の可否は個別に政策判断すればよい。

 日本が侵略される場合、殺傷力のある防衛装備品を提供する国が現れなければ、自衛官や国民の命が一層多く失われかねない。米欧がウクライナへ火砲や弾薬など防衛装備品を提供しなければ侵略者ロシアが凱歌(がいか)をあげるだろう。そのような非道な世界に直結するのが、防衛装備品輸出を批判する偽善的平和主義の謬論(びゅうろん)である。輸出範囲を不当に限定する移転三原則の5類型の撤廃が欠かせない。

 

戦闘機輸出解禁 平和国家の理念損なう(2024年3月17日『東京新聞』-「社説」)

 政府が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を解禁する。戦闘機は殺傷能力が高く、国際紛争を助長するとして輸出を禁じてきた平和国家の理念と価値を損なう。再考を求める。
 政府は2022年、次期戦闘機を英伊両国と共同開発することを決定。当初は第三国輸出を前提としていなかったが、英伊から調達コストの削減を求められて方針を転換。輸出を認めるかどうか与党内で調整が続いていた。
 公明党は戦闘機の第三国輸出に慎重だったが、政府が共同開発した武器輸出に関し(1)次期戦闘機に限定(2)戦闘が行われている国は対象とせず、防衛装備品・技術移転協定を締結した国に限る(3)個別案件ごとに閣議決定する-との条件を提示したため、容認に転じた。
 自公は15日にも輸出解禁に大筋合意する。政府は近く防衛装備移転三原則の運用指針改定を閣議決定し、35年までの配備を目指す。
 ただ、政府が示した条件が「歯止め」になるとは言い難い。
 移転協定を結んで輸出後の使い方や再移転を制限しても、他国に渡った兵器の行方を監視することはできず、国際法に反する武力行使に使われる懸念は残る。英国など4カ国が共同開発した戦闘機ユーロファイターが第三国のサウジアラビアに輸出され、イエメン内戦で空爆に使われた例もある。
 次期戦闘機の輸出を個別案件ごとに閣議決定するにせよ、政権内の手順に過ぎない。憲法の平和主義に関わる基本政策の転換を、国会での審議を経ず、政府与党だけで決めることなど許されない。
 そもそも取得費用を抑制するために輸出が必要なら、別の武器を他国と共同開発する場合も輸出が避けられない理屈になる。
 残念なことは公明党が結局、連立維持を優先させ、戦闘機輸出で妥協したことだ。「平和の党」の理念はどこへ行ったのか。
 戦後日本は、専守防衛や武器禁輸など「平和国家としての道」を歩み、国際的な信頼を得てきた。その外交資源を安易に捨て去っていいのか。国会はもとより国民的な議論を尽くさねばなるまい。

 

1年間の禁酒を約束した男がいる。が、どうしても、お酒を飲み…(2024年3月17日『東京新聞』-「筆洗」)

 1年間の禁酒を約束した男がいる。が、どうしても、お酒を飲みたい。そこで夜だけ飲むことにして代わりに「禁酒期間」を2年間に延ばした。友人がさらに提案する。「禁酒期間」を3年にすることにして、昼も夜も飲めることにしたらどうか。おなじみの小咄(こばなし)だろう

▼期間を延ばしても、これでは禁酒にはならない。妙な理屈をこしらえては決めたことを破ってしまう人の弱さがおかしくも、悲しい

▼心配性の小欄は時代があの男と同じ道をたどっているような気になってしまう。「禁酒」ではなく、戦後日本が立てた「平和主義」という決めごとである。日英伊3カ国で共同開発する次期戦闘機を巡る問題で、自民、公明両党は日本から第三国への輸出を解禁することで合意した

▼武器輸出三原則さえ遠い昔で、時代を追うごとに武器輸出に抑制的な方針は弱められ、とうとう人をあやめる戦闘機まで輸出する国となる

▼輸出したい事情や理屈はもちろんある。安全保障環境は緊迫化しており、高性能の戦闘機で備えたい。生産コストを抑えるため第三国への輸出を認めなければ共同開発がうまく進まない-。ただ、どんなに理屈を並べ、条件を加えようとも紛争を助長しかねない戦闘機を輸出できるのであれば、「平和主義」という国の決めごとは怪しかろう

▼禁酒中と言いつつ、昼夜なく、だらしなく酒をあおる男が見える。

 

次期戦闘機の輸出(2024年3月17日『しんぶん赤旗』-「主張」)

 

「平和国家」の理念覆す暴挙だ

 国際紛争を助長しないという「平和国家」の理念を覆し、「死の商人」国家の道に大きく踏み込む暴挙です。自民・公明両党が15日、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機について、日本から英・伊以外の第三国への輸出を解禁することで正式合意しました。岸田文雄首相は、「歯止め」を設け、「平和国家としての基本理念を堅持する」と述べています。しかし、次期戦闘機は「最先端の殺傷能力を持つ兵器」(公明党の西田実仁参院会長、5日の参院予算委員会)です。「歯止め」には何の実効性もなく、殺傷武器の輸出拡大に拍車をかけることは間違いありません。

殺傷武器でもうけ狙う

 次期戦闘機は、岸田政権が2022年12月の安保3文書で、自衛隊のF2戦闘機の後継として、英・伊との共同開発を決めたものです。この際、「日本(から次期戦闘機)の完成品は第三国に輸出しない前提」(同前)でした。

 同時に3文書は、武器輸出を拡大するため、「防衛装備移転三原則」とその「運用指針」の見直しを明記しました。

 これを受け、政府は23年12月、日本の軍需企業が外国の許可を得て製造(ライセンス生産)する武器の完成品をライセンス元の国に輸出可能にするなど、殺傷武器の輸出に道を開く改定を強行しました。この時、国際共同開発した武器の「部品」についても第三国への輸出を認めました。

 さらに政府は、次期戦闘機の完成品について英・伊が第三国への輸出によって価格を安くすることを重視しているとして、与党協議の中で、日本も第三国に直接輸出する仕組みを持つよう主張していました。そうしなければ、英・伊との交渉で不利な立場に置かれ、日本が次期戦闘機に求めるステルス性(相手に探知されにくい性質)などを実現できなくなるというのが口実です。

 輸出によって価格を安くするというのは、単価を下げるため、海外の販路を広げ、たくさん売ってもうけを増やすということです。英・伊の顔を立てるため、殺傷能力の高い戦闘機を海外で売りさばくことを当然視するものです。

 岸田首相は、今回の自公の合意に当たり、▽国際共同開発する武器の完成品の輸出は、次期戦闘機に限定する▽輸出先は、他国に侵略しないなど国連憲章に適合した使用を定めた協定を日本と締結した国に限る▽現に戦闘が行われている国には輸出しない―という「三つの限定」を設けるとしました(13日、参院予算委)。

 しかし、輸出できる対象を次期戦闘機以外に広げることは政府・与党の判断で可能です。これまで殺傷武器の輸出をずるずると拡大してきたことからしても、自公政治の下で、今後、なし崩し的に広がることは明らかです。

国会は全く関与できず

 輸出先の国が日本との協定通りに使用することを保証する具体的な措置はなく、現に戦闘が行われていない国であっても、将来、紛争当事国になる恐れもあります。

 首相は、運用指針を変更する時と実際に第三国への輸出を決める際、「二重の閣議決定」を行うともしていますが、いずれの場合も国会は関与できません。

 岸田政権は今月下旬にも運用指針の改定を強行しようとしていますが、決して認められません。