次期戦闘機輸出に関する社説・コラム(2024年3月25日)

日本、英国、イタリアが共同で開発する次期戦闘機のイメージ(防衛省提供)

 

次期戦闘機輸出 「密室合意」が土台を崩す(2024年3月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 

 日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を巡り、岸田文雄政権があす、第三国への輸出解禁を閣議決定する。

 航空自衛隊F2戦闘機の後継機となる。同様に「ユーロファイター」の次に位置付ける英伊と技術を結集し、2035年度までの配備を目指す。

 最新機能を備える戦闘機の輸出は、他国を脅かさず、外交による国際問題の解決を旨としてきた戦後日本の平和主義を覆す。

 「重要な政策をなぜ変更するのか。議論が尽くされていない」として反対してきた公明党は、輸出解禁に焦る官邸・自民党に、一定の“歯止め策”をのませることで最後は妥協した。

 その歯止め策の一つは、実際に戦闘機を輸出する際、案件(どの国に何機売るか)ごとに与党の事前審査を経て、閣議決定する「厳格な手順」を言う。

 もう一つは、輸出先は他国への売却や侵略目的の使用を規制する協定を日本と結んだ国に限り、現に戦闘が行われている国は除外する「条件」を指す。

 しかし「厳格な手順」に国会の承認は含まれていない。いまは15カ国の協定締結国も、輸出を前提に増やすことができる。

 木原稔防衛相は国会で「侵略などに使われる場合、是正要求や部品移転(輸出)の差し止めを含め厳正に対処する」と説明した。目的外使用は捕捉し切れず、「厳正な対処」も戦闘機が他国の人々を殺傷した後になろう。

 首相は「直接移転を行い得る仕組みを持たなければ、日本が求める戦闘機の実現が困難になる」と国会で訴えた。輸出して製造単価を下げられなければ、英伊は日本が必要とする性能を戦闘機から削るという懸念だ。

 公明は、この程度の答弁を可とし輸出容認に転じている。自民内では武器輸出の全面解禁を主張する日本維新の会と手を組もうとの動きも見られた。連立政権は維持したい党利党略が透ける。

 確かに国会に諮ったところで、国民民主党も輸出を認めている。賛否両論に割れる立憲民主党の立ち位置は定まらない。

 兵器を売って稼ぐ方策を岸田首相は「国益」と言い切る。開発費で防衛支出はさらに膨らみ、国民負担となってはね返る。潤うのは防衛産業となるだろう。

 岸田政権は外交構想には言及せず、日本を変質させる防衛力強化に躍起になっている。説明も議論もない国民不在の「密室合意」を認めるわけにはいかない。

 

次戦闘機輸出/「厳格な歯止め」はあるか(2024年3月25日『神戸新聞』-「社説」)

 

 自民、公明両党は、日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出解禁で合意した。政府は26日に閣議決定し、武器輸出のルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針をさらに緩める。

 殺傷兵器そのものである戦闘機の輸出は、戦後日本が平和主義に基づき堅持してきた専守防衛の理念を形骸化させる。安全保障政策の大転換となり、国民的合意もないまま進めていい問題ではない。いったん立ち止まり、国権の最高機関である国会で徹底的に議論するべきだ。

 日本は武器輸出三原則に基づき事実上の全面禁輸を続けてきたが、第2次安倍政権で禁輸を撤廃して以降、ルールの緩和が進んでいる。

 閣議決定案では、輸出する際は「個別案件ごとに閣議で決定する」と明記した。運用指針に第三国輸出を認める項目を新設し、今回は対象を次期戦闘機に限る。輸出先は日本と協定を結んだ国に限定し、現に戦闘が行われている国には輸出しない。

 岸田文雄首相は「二重の閣議決定で厳格なプロセスを経る」とし、「平和国家の理念に反しない」と強調する。公明党は「紛争を助長し、日本の安保環境を損なう恐れがある」などとして輸出に慎重だったが、これらの「歯止め策」を評価し容認に転じた。しかし、実際に歯止めとなるかは大いに疑問だ。

 対象国は現在15カ国だが、新たに協定を結べば増やせる。輸出先で国際法違反の攻撃や他国への侵略に使われないかを監視するのは容易ではない。なし崩し的に対象品目や輸出先が拡大し、日本製の武器が国際紛争に加担する恐れすらある。

 今月末には3カ国の共同企業体が発足する。それまでの決着を最優先した「合意ありき」の与党協議と見られても仕方がないだろう。

 見過ごせないのは、輸出手続きに国会が関与する機会がないことだ。これまでも自公政権は、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など賛否が分かれる安保政策の転換を与党協議と閣議決定で推し進めてきた。

 国民の疑念や不安に向き合わない閣議決定では、何回重ねても「厳格な歯止め」にはなり得ない。

 共同通信の今月の世論調査では、戦闘機の輸出に関し「同盟国や友好国などに限定して認めるべきだ」の48・1%と、「一切認めるべきではない」の44・7%に二分された。公明支持層では「一切認めるべきではない」が63・1%に上った。党執行部は「平和の党」の足元が揺らいでいると受け止める必要がある。

 戦後日本が「平和国家」として築いてきた国際的信頼を失うことのないよう、首相は丁寧な説明と国民的議論を尽くさねばならない。

 

次期戦闘機の輸出 なし崩しの拡大を危惧(2024年3月25日『山陰中央新報』ー「論説」)
   

 自民、公明両党は英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機に関し、日本から第三国への輸出を認めることで合意した。政府は26日に輸出方針を閣議決定し、国家安全保障会議(NSC)で運用指針を改定する。

 政府、自民党は共同開発する武器の第三国への輸出を全面解禁するよう主張していたが、公明党が反対。今回は次期戦闘機に限定し、輸出先は「防衛装備品・技術移転協定」を結ぶ国に限った上で、輸出先ごとに与党協議を経て閣議決定する手続きを踏むことで折り合った。紛争当事国は対象から除外する。

 岸田文雄首相は国会で「手続きの厳格化で、平和国家としての理念を堅持することを明確な形で示す」と強調した。だが、この手続きは与党内だけで完結し、国会の関与は担保されていない。武器輸出の大幅な拡大に慎重姿勢を示した公明党に配慮した形だが、これがありの一穴となって輸出対象がなし崩しに拡大していくのではないか。危惧せざるを得ない。

 岸田首相は戦闘機開発に関して「島国である日本の平和と安定を確保するために不可欠だ」と強調。調達価格を下げるために英伊両国が第三国輸出を重視し、「日本も同様の仕組みを持つことが国益になる」と述べ、理解を求めた。しかし、最新鋭の戦闘機の輸出は、憲法が掲げる「平和主義」の下で、かつては武器輸出を全面禁止していた安保政策の重大な転換となる。経済的なコスト削減を理由に踏み切っていいのか。

 政府は昨年末に防衛装備品の輸出ルールを定めた移転三原則とその運用指針を改定し、外国企業のライセンス(許可)に基づいて生産した完成品について、ライセンス元への輸出を認めるなど規制を緩和した。武器輸出国への変質だ。そこには国内の防衛産業を維持する目的もあろう。だが、国際秩序が不安定さを増す中で、日本は平和国家としてどういう外交・安保政策をとるのか。国会で真正面からしっかりと議論すべきだ。

 次期戦闘機を含む国際共同開発の武器輸出は、昨年7月に自公の実務者がまとめた論点整理では「移転できるようにすべきだとの意見が大宗(大勢)を占めた」と容認する方向だった。ただ、その後、公明党が「歯止めが必要だ」と主張したため、昨年末の改定では先送りされた。

 公明党が指摘したのは、2022年に次期戦闘機の共同開発を決めた際には第三国輸出が想定されていなかった点だ。岸田首相は「決定後に協議を進める中で、日本にも第三国輸出を求めていることが明らかになった」と説明した。しかし、この答弁は信じ難い。共同開発の交渉段階で当然、議題になっていたはずだ。詰めを怠ったとすれば政府の失策であり、意図的に隠していたならば国民への背信行為だ。

 公明党議員は国会質疑で「戦闘機の輸出先で紛争に使われれば、地域の安定を失い、日本を取り巻く安全保障環境が損なわれるのではないか」「相手国の政権が代われば運用の適正管理が不可能になるのではないか」との懸念を示した。その通りだ。では今回の決定でその懸念は払拭できるのか。自公協議は結論ありきではなかったのか。

 戦闘機という極めて殺傷能力の高い武器の輸出を認めれば、他の武器の第三国輸出のハードルは下がるのが現実だろう。日本の安保政策上、本当に必要なのか。真摯(しんし)な議論を求めたい。