1960~70年代の米国で女性が中絶の権利を獲得する実話を基にした映画「コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-」が22日、全国公開された。「この映画を契機に、日本の中絶の現状や、性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ=SRHR)に関心を持ってほしい」。同作品をPRする福田和子さん(28)=東京都=は力を込める。(奥野斐)
人工妊娠中絶 母体保護法に基づき、妊娠22週未満で身体的、経済的理由で母体の健康を著しく害する恐れがある場合と、暴行、脅迫を受けて妊娠した場合に、指定医師が行う。初期(12週未満)の手術は掻爬(そうは)法や吸引法などで行われるが、妊娠12週以降は人工的に陣痛を起こす方法で死産届の提出も必要。2022年度の人工妊娠中絶件数は12万2725件。
映画タイトルの「ジェーン」は、米国で推定1万2000人の中絶を手助けしたといわれる女性らの団体。非合法の状況で活動するうち、米連邦最高裁は73年、人工妊娠中絶の権利について合法判決を下す。女性の身体のことは自身で決める、というジェーンの活動を追認する形になった。
この映画のPRイベントに出演した福田さんは「女性の身体のことを、誰が決めているのか。作品で描かれる50年前の男性中心社会は、今の日本にも当てはまる部分が多い」と語る。
◆より安全な中絶方法を情報発信
福田さんはかつて、避妊や、飲む中絶薬を無料処方するなど女性の権利保護が進むスウェーデンに留学。その経験などから、日本でより幅広い性教育や避妊、安全な中絶方法を求めて情報発信する「#なんでないのプロジェクト」を2018年に始めた。
国内では年間12万件超の人工妊娠中絶が行われている。合併症などのリスクがあるため世界保健機関(WHO)が「時代遅れ」と指摘する、器具で胎盤などの子宮内容物をかき出す「搔爬(そうは)法」による手術も少なくない。
薬を飲んで中絶する選択肢もできたものの、福田さんは「必要な人が使いやすい制度になっていない」と改善を求める。昨年4月に国内で承認された中絶薬は当分の間、処方は入院施設のある医療機関のみに限られるなど、課題がある。
避妊の失敗や性暴力などによる意図しない妊娠を防ぐ「緊急避妊薬」は、昨年11月に全国約150の薬局で試験販売が始まった。ただ対象は16歳以上で、18歳未満は保護者の同伴が必要。「自分のからだは自分のもの、というSRHRの考え方が日本でも広まりつつある一方、薬へのアクセスは確保されていない」と福田さんは指摘する。
昨今の少子化による「産めよ増やせよ」という風潮の強まりにも懸念を感じるという。「SRHRが少子化でかき消されてしまう。産む選択と同様に、産みたくない人の選択や気持ちも尊重されるべきだと思う」と話した。