「勝てない」偏見に挑む 未婚でも卵子凍結を 不自然に高かった「男子の割合」 女性にまつわる世界の話題(2024年3月8日『東京新聞』)

 

 3月8日は国際女性デーです。
 
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 世界各国で、女性の政治参加や社会進出、人権向上に向けた動きや取り組みが進んでいる。米国、韓国、中国の現場から報告する。

◆過去にわずか3人…上院議員を目指すアメリカの「黒人女性」

 選挙イヤーの米国で、7人の黒人女性が上院の議席獲得に挑戦。1789年から続く上院の歴史で、上院議員を務めた黒人女性はわずか3人しかいない。「選挙で黒人女性は勝てない」との偏見を打ち破り、歴史的な躍進を目指している。
 「黒人であること、低所得者層であること、女性であることが何を意味するのか、私の知っていることすべてを政策に変えようとしてきた」。西部カリフォルニア州上院選の予備選に出馬した黒人女性のバーバラ・リー下院議員(77)=民主党=は選挙期間中、米メディアの取材に自身の活動をそう説明した。
 
5日の上院選の民主党予備選で敗れたバーバラ・リー下院議員=AP

5日の上院選の民主党予備選で敗れたバーバラ・リー下院議員=AP

 1998年の下院選で初当選以来、リベラル色の濃いプログレッシブ(進歩派)の議員として活動。2001年の米中枢同時テロ直後、ブッシュ(子)大統領の武力行使容認決議にただ一人、反対票を投じた。そんなベテラン議員も5日の予備選で敗れ、上院議員の座には届かなかった。
 ラトガース大「米国女性と政治センター(CAWP)」によると、米下院は定数435のうち黒人女性議員は28人で、20年から3人増えた。一方で全50州から2人ずつ選ばれる上院(定数100)の黒人女性の現職は、カリフォルニア州選出のラフォンザ・バトラー氏=同=だけだ。
 米国の総人口に占める黒人女性の割合は7.7%。同大のケリー・ディトマー准教授は「黒人女性は白人の多い選挙区で勝てないという偏見が長く続き、選挙資金や有力者の推薦獲得に苦しんできた」と指摘。「今回は有力候補が複数おり、歴史を変える可能性は十分ある」と語る。
CAWPが把握する候補のうち、いずれも民主党で東部デラウェア州選出のリサ・ロチェスター下院議員(62)、東部メリーランド州プリンスジョージ郡長のアンジェラ・アルソブルックス氏(53)らの善戦が見込まれている。(ワシントン・浅井俊典)

SNSを禁じられても…権利を求めて訴えた中国の未婚女性

 中国でも社会学者の上野千鶴子氏の著書が人気を呼ぶなど、フェミニズムへの関心は高い。
 2019年に中国で初めて未婚女性の卵子凍結保存を認めるよう訴えた徐棗棗(じょそうそう)さんは「訴訟をきっかけに同じような未婚女性が声を上げ始めた」と話す。訴えは退けられたが、未婚女性の権利を訴える数百人がネット上でグループ化。上訴して二審の判決を待つ徐さんは「未婚女性に対する、より良い政策が出てくると期待している」と語った。
 
2021年9月、提訴した病院の前にたつ徐さん。手にした冊子には「私の子宮は私のもの」とある=本人提供

2021年9月、提訴した病院の前にたつ徐さん。手にした冊子には「私の子宮は私のもの」とある=本人提供

 ただ「#MeToo」運動など女性個人の権利擁護は「外国勢力と結託して国家分裂を図る動き」だとみなされがちで低調だ。著名アナウンサーから性暴力を受けたとして周暁璇(しゅうぎょうせん)さんが損害賠償を求めた訴えは一、二審とも退けられ、周さんは交流サイト(SNS)での発信が一時禁じられた。
 習近平(しゅうきんぺい)国家主席は昨年10月、女性の地位向上を話し合う中華全国婦女連合会の幹部らとの会合で「新型結婚出産文化」に言及。その内容について、12月の中国婚姻家庭研究会では「結婚を望むよう誘導し、結婚を怖がる懸念を打ち消し、出産を望む雰囲気づくりを」「家庭を重視し、家庭内教育を行い、家風を守るという優良な伝統を発揚しなければならない」といった発言が相次いだ。(北京・新貝憲弘)

◆女と分かれば中絶?「憲法違反」と判断された韓国の法律

 韓国で2月末、医師から両親らに胎児の性別を告げることを禁じた法律の条項について、憲法裁判所は「死文化した」として憲法違反だと判断した。
 儒教的思想が色濃い時代は男児出産を望む風潮が強かった。当時は胎児が女と分かると中絶する例が多く社会問題化。1987年に性別告知が禁じられた。
 韓国メディアによると、90年の新生児の女子1人に対する男子の割合は、第1子で1.09人、第2子で1.17人、第3子で1.94人と不自然に高かった。「少なくとも1人は男児を産まなければ」との考えから、女の胎児の中絶が多かったとみられる。
 ところが最近では、おおむね自然な比率に収まっている。韓国統計庁によると、この10年間で男の新生児の割合は第3子も含め1.04〜1.08人だった。
 憲法裁は「もはや胎児の性別と中絶に有意な関連がない」と判断。「現在は女性の社会・経済的地位が向上し、男女平等意識もかなり定着し、男児をえり好む思想は明確に衰退している」と指摘した。
 朝鮮日報違憲判断を歓迎する医師や親の声を伝えている。(ソウル・上野実輝彦)