タブー視から脱却、「適切な」性教育 TENGAや支援者の決意(2024年3月10日『毎日新聞』)

寄せられた投稿に答える形で、10代の若者に向けて性に関する情報を発信するウェブサイト「セイシル」
寄せられた投稿に答える形で、10代の若者に向けて性に関する情報を発信するウェブサイト「セイシル」

 「中に射精しなければ妊娠しませんか?」

 「男性にコンドームを付けてほしいけど、どう伝えたらいいの?」

 性の困り事に応えるウェブサイトには3年間で1万3000件の相談が寄せられたという。サイトを運営するのは、男性の自慰行為を補助するアダルトグッズTENGA(テンガ)」を手掛ける企業グループだ。【平塚雄太、菅野蘭】

 孤立出産した女性が、産んだ子の死体遺棄罪などに問われる事件は後を絶ちません。妊娠には男性も深く関わります。産む側の性の女性にだけ、負担や責任が偏る現状を連載で考えます。以下のラインアップでお届けします。
 ・妊娠を知り姿消した男性Aの今
 ・同居中の出産に気付かなかった男性B
 ・「不透明」な父親
 ・「出産≠母」の選択肢

若者のモヤモヤ減らしたい

 テンガのグループ企業「TENGAヘルスケア」は2019年、性教育サイト「セイシル」を開設した。10代の若者から寄せられる疑問や悩みについて、恋愛・セックス▽妊娠・中絶▽避妊▽マスターベーション――など10個のカテゴリーに分類。産婦人科医や教員ら60人以上の専門家が、それぞれの立場から解説している。

 性にまつわる情報を得たいと思って、インターネットで検索すると、アダルトサイトが表示されることは多い。

 テンガグループは「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」との企業理念もあることから、「性についてモヤモヤを抱えたまま、迷子になってしまう若者を減らしたい」としてセイシルでの情報発信を始めたという。

 正しい知識を若者に知ってもらうためには、学校現場での取り組みが欠かせない。ただ、元高校教諭の福田真央さん(29)は「保健体育の授業で、女性の体の仕組みについて説明することはあっても、性的同意など、人権に関わる部分は深く教えることはありませんでした」と明かす。

 性教育をタブー視する教育現場に限界を感じた福田さん。「TENGAヘルスケア」に身を転じ、今はフランスのパリ市で学生に配布されている性教育の教材「デートDVチェッカー」の日本語版の製作など、教諭や保護者に向けた性教育に携わる。

 この教材は、性暴力の定義や性的同意の基準をグラデーションで表現している。交際相手の行為について、「必ずあなたにも了解をとる」なら良好な関係の緑色、「キゲンが悪くなると無視する」は警戒領域の黄色、「同意なくあなたの体を触る」は危険を示す赤色、といった具合だ。

「外出しすれば大丈夫?」の誤解

 妊娠は男女2人による性行為の結果、起こる。だが出産に至るまで、身体的にも精神的にも圧倒的に負担を強いられるのは女性だ。

 セイシルでは、寄せられた若者の声を基に漫画形式で避妊方法などを紹介。「2回目の射精は精子が減っているから妊娠しない」「膣を洗えば妊娠しない」との誤解に対し、「なにで洗ったって避妊になりません」などと解説している。

 「ゴムなしでも外出しすれば大丈夫?」との疑問には「コンドームをつけないセックスや、避妊に協力しないことは『暴力』にあたる」ともアドバイスする。

 福田さんは「適切な性教育をしないと、望まない妊娠や性感染症を引き起こしかねない。交際しているカップルで、性暴力の加害者、被害者になってしまう可能性がある…