裏金議員処分 真相置き去りの居直りだ(2024年3月28日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 国民は到底納得しない―。そんな声は自民党内からも上がる。

 岸田文雄総裁が安倍派幹部の塩谷立下村博文西村康稔世耕弘成各氏への直接聴取を終えた。党は近く、裏金問題に関わった安倍派と二階派の議員80人ほどを一斉処分する。

 衆参の政治倫理審査会で弁明した両派の9人は保身の態度が際立った。裏金づくりがいつ、誰の指示で始まり、何に使ったのか。知らぬ存ぜぬを通し、真相は依然やぶの中にある。

 実態が不明なまま、自民執行部は先に挙げた4人に党則で4番目に重い「選挙での非公認」以上の処分を科すという。裏金を受領した若手・中堅は役職停止や戒告にとどまる公算が大きい。

 非公認となれば次の選挙は無所属で立候補するものの、当選すれば追加公認を受けられる。コロナ禍の緊急事態宣言下、銀座のクラブを訪ねた議員3人は離党勧告を受けた。今回の処分方針がいかに軽いか知れよう。

 こうした中、二階派領袖(りょうしゅう)の二階俊博氏が次期衆院選への不出馬を表明した。3500万円余の裏金を受け取り、自身の秘書の有罪が確定、派閥の元会計責任者も在宅起訴されている。

 85歳の元幹事長の引退は驚くに当たらない。むしろ、同じ和歌山県が地盤の前参院幹事長・世耕氏への“当てつけ”と見る向きもある。二階氏は、衆院くら替えをうかがう世耕氏が後釜に座ることに難色を示していたという。

 党執行部は「重い判断だ。党への貢献は大きい」とし、処分対象から二階氏を除く構えでいる。これもおかしい。出処進退とは別に事実関係を聴取し、相応の処分を科してしかるべきだ。

 自民は野党が要求する証人喚問に応じようとしない。裏金問題解明の鍵を握るとされる森喜朗元首相への調査要請にも、岸田総裁は首を縦に振らない。

 今月中に2024年度予算が成立する見通しで、国会で追及を受ける機会は減る。4月には岸田首相が訪米し、28日は衆院補欠選挙が控える。早く幕引きを図りたいのが本音だろう。

 この分では、首相が今国会中に行うとする政治資金改革の行方もおぼつかない。

 政治不信を募らせる国民を甘く見ているのか。裏金工作もさることながら、発覚後も自民は居直るような対応を続け、党中枢の誰もが責任を果たそうとしない。「刷新」には程遠い党の体質こそ深刻と言わざるを得ない。