関東東部の地震 延宝房総沖の教訓学ぼう(2024年3月28日『産経新聞』-「主張」)

 関東地方の東部で地震が相次いでいる。

 2月から3月にかけて千葉県東方沖で地震活動が活発化し、21日には茨城県南部を震源とする最大震度5弱の地震が発生した。気象庁は「最大震度5弱程度の地震に注意してほしい」としている。

 家具の固定など地震への備えを徹底するとともに、過去の地震災害の教訓を掘り起こす契機としたい。

 江戸時代の延宝5(1677)年に起きた「延宝房総沖地震」では、千葉、茨城両県を中心に東北・関東の太平洋沿岸の広範囲が大津波に襲われた。最大波高は10メートルを超えていたと推定される。震源域は東日本大震災震源断層の南側に位置する日本海溝沿いだ。

 中央防災会議は、この震源域が「東日本大震災に誘発される可能性がある」としている。津波の規模と大震災に誘発された場合の切迫度に対し、延宝房総沖の認知度は低すぎる。

 「千年に一度の大災害」といわれた東日本大震災の後に、約1100年前の貞観地震(869年)の津波被害について初めて知った人が多いだろう。震災前に知っていれば「助かった命」があったはずだ。

 約350年前の房総沖地震の教訓を掘り起こし、次世代に伝えることは、東日本大震災を体験した世代の責務である。

 津波防災の視点で極めて重要な延宝房総沖地震の特徴は、地震による揺れはそれほど大きくないのに大津波を起こす「津波地震」であった可能性が高いことだ。巨大津波により2万2千人もの犠牲者を出した明治三陸地震(1896年)が、このタイプの地震だった。

 震度4や5弱の地震を何度も体験すると、震度3以下の揺れに対する警戒心が薄れ「この程度の揺れなら大丈夫だ」と思い込みたくなる。

 房総沖には限らない。揺れの強さと津波の規模は必ずしも比例しないことを各自が念頭に置き、行動することが大事だ。

 人が感じる揺れは小さくても長周期地震動で高層ビルが激しく揺れる可能性はある。

 延宝房総沖地震が起きたのは今の暦の11月4日、「世界津波の日」の前日にあたる。これに合わせて延宝型の地震津波を想定した訓練や啓発活動を毎年実施すれば、教訓を次世代に伝えられるのではないか。