はしかの国内流行を防止せよ(2024年3月28日『日本経済新聞』-「社説」)

 
はしかのウイルスの電子顕微鏡写真=米疾病対策センター提供・共同
 

 はしかの感染者数が世界で急増するなか、国内でも2月以降、患者が相次いで確認された。多くが海外からの帰国者でウイルスが外から持ち込まれた。今のうちに感染拡大を防ぎたい。

 はしかは新型コロナウイルス禍が収束した2023年から世界各地で流行中だ。世界保健機関(WHO)は同年の感染者数が前年比80%増の30万人以上と報告し、警戒を呼びかけている。「昔の感染症」と侮ってはいけない。

 日本はかつて海外から批判されるほど、はしかが春から夏にかけて定期的に流行する国だった。その後、ワクチンの予防接種が浸透し、患者数が激減した。15年には土着ウイルスのいない「排除国」としてWHOから認定された。

 国内の患者数は世界的に流行した19年に700人を超えたが、コロナ禍の20〜22年は年10人以下に減り、昨年は28人だった。今年は東京や大阪などで既に20人に達した。市中感染が起きてもおかしくない。注視する必要がある。

 はしかは感染力が極めて強い。空気感染するためマスクや手洗いでは十分に防げない。免疫のない人が感染するとほぼ100%発症する。潜伏期間が約10日と長く、発熱やせきなどの症状が出た後に39度近くの高熱に見舞われ発疹が出る。まれに脳炎を併発する。

 決め手となる治療薬はないが、ワクチンで防ぐことが可能だ。また一度かかると生涯、免疫が保持され再び発症することはない。

 小児を対象に2回の定期接種が始まったのは06年度からだ。それ以前は1回接種か任意だったため現在50代以上の人は免疫のない可能性がある。子どもだけでなく大人も警戒しなければならない。

 海外へ渡航する人や、罹患(りかん)歴が不明な人は、まずかかりつけ医に相談し、抗体検査を受けることだ。免疫がなければ予防接種を受ける。一部の医療機関からワクチンが足りなくなるのではないかと懸念の声が出ている。国は製薬会社と協力し、十分供給できるよう努めてもらいたい。