見せてもらおうか、安川の技術とやらを 「動くガンダム」のリアル(2024年3月28日『毎日新聞』)

かがみ込む「動くガンダム」Ⓒ創通・サンライズ=横浜市中区で2024年3月14日午後0時25分、石田宗久撮影

かがみ込む「動くガンダム」Ⓒ創通・サンライズ横浜市中区で2024年3月14日午後0時25分、石田宗久撮影

 

 横浜・山下ふ頭で親しまれてきた「動くガンダム」の公開が3月末でフィナーレを迎える。アニメ「機動戦士ガンダム」をモチーフにした世界観で製造された実物大ロボットには、多くの技術者の夢が詰まっている。アニメの名セリフ「こいつ……動くぞ!」をリアルに実現する原動力となった、モーターにかけた技術者の思いを聞いた。

 ふ頭の一角にある「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA(ガンダム・ファクトリー・ヨコハマ)」(横浜市中区)。白をベースに赤、青、黄に塗られた機体が格納ドック前に映える。2020年12月から一般公開されたガンダムは、設定と同じ全高18メートル。重量は25トンで、腕や脚など24カ所が動く。

横浜市中心部にある「動くガンダム」
横浜市中心部にある「動くガンダム
 

 開発に関わったのは、本体デザインと演出の乃村工芸社(東京)、ガンダムの台車を担当する住友重機械搬送システム(同)など国内企業9社。1979年の放送開始から40周年での実現を目標に、プロジェクト「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE(ガンダム・グローバル・チャレンジ)」として14年に始動した。

 中でも、機体の可動を実現させる原動力となるモーターと制御技術で貢献したのは、産業用ロボットで世界トップクラスの安川電機北九州市)だ。ガンダムのモーションプログラムを担ったアスラテック(東京)にモーターを納入していたのをきっかけに、プロジェクトに加わった。

 「非常に興奮した。『ガンダム』の4文字で、みんながやる気を出してくれる」。窓口となった技術営業担当の黒木亮介さん(38)が振り返る。自身も少年時代、アニメでガンダムに親しんだ。プロジェクトにはプログラムや制御で技術者4人が参加し、品質保証など数十人の同僚が関わった。

「動くガンダム」に使われている安川電機のモーターと制御装置=横浜市中区で2024年3月14日午前11時48分、石田宗久撮影
「動くガンダム」に使われている安川電機のモーターと制御装置=横浜市中区で2024年3月14日午前11時48分、石田宗久撮影
 

 ガンダムの可動は、試行錯誤の積み重ねだった。

 各社の担当者が定期的に集まって仕様を検討。本体となるメカの設計を基に、実際に動かすために必要な力はどれぐらいか、どう動かせばいいのか――。「安川電機が、動きの中核を担うという気持ちだった」。黒木さんが明かす。

 安川電機のモーターが可動を担ったのは、腕や脚など22カ所。故障やメンテナンスを想定し、半導体製造装置などに使われる一般的な産業用モーターを活用することにした。

 例えば、ひざや太ももの部分は設定に合わせたデザインの必要性から、左右から挟むようにして2個のモーターを装着。調整を重ねて動きを同調させた。モーターはナブテスコ(東京)製の減速機と接続し、関節を動かす力を増幅させている。

 張り巡らされた配線の長さは約4・9キロ。試運転段階では、この長さゆえ、信号の通信異常など制御に苦慮することもあった。

動くガンダムの腰部に設置された安川電機のモーター(中央右と左)Ⓒ創通・サンライズ=横浜市中区で2024年3月14日午後0時4分、石田宗久撮影
動くガンダムの腰部に設置された安川電機のモーター(中央右と左)Ⓒ創通・サンライズ横浜市中区で2024年3月14日午後0時4分、石田宗久撮影
 

 何度もテストを重ねた後、フレームにガンダムを象徴する白や青、赤の外装が取り付けられた。ゆっくりと前かがみになるガンダムの姿は、アニメをほうふつとさせる滑らかで人に近い動きだった。「重厚感に圧倒され、衝撃を受けた」。黒木さんにとって忘れられない光景だ。

 アニメでは高速で動くガンダムだが、展示は安全性や長期間の運用を考慮し、スピードは抑えられた。本当はもっと速く動かしたかったのでは? 記者がそう聞くと、黒木さんは笑って答えた。

 「携わった技術者たちは『もう少しやりたいな、やれるよな』と思っていた。次があるとすれば、限界を突き詰めてみたい」

 展示環境も異例だった。横浜港に面した屋外にあり、潮風や直射日光、風雨にさらされる日常は機械には過酷な環境だ。それでも、定期メンテナンスを経て、これまで大きなトラブルは起きていない。

 動くガンダムの型式番号は「RX―78F00」。過去の戦いで失われた機体と思われるパーツが発見され、研究、分析、再構築したというオリジナルの設定だ。「起動実験」の演出の下、脚を踏み出したり、腕を突き上げたりして来場者を楽しませてきた。

「動くガンダム」の前でポーズを取る安川電機の黒木亮介さんⒸ創通・サンライズ=横浜市中区で2024年3月14日午前11時26分、石田宗久撮影
「動くガンダム」の前でポーズを取る安川電機の黒木亮介さんⒸ創通・サンライズ横浜市中区で2024年3月14日午前11時26分、石田宗久撮影
 

 当初は22年までの公開予定だったが、新型コロナウイルスの影響で来られなかったファンらのリクエストは熱く、公開期限は2回延長。来場者数は24年2月、150万人を突破したが、公開終了後は撤去される。迫るフィナーレを前に、黒木さんは「トラブルなく無事に完走してほしい、とずっと思ってきた。さみしさはあるが、達成感は大きい」と語る。

 アニメでは兵器として描かれるガンダムだが、もし実用化されたら――。「さまざまな災害に対し、人の思うままに動き、人命救助に役立ってほしい」。右手を上げたガンダムを、黒木さんが見上げた。【石田宗久】