紅こうじを使った小林製薬のサプリメントを摂取した人の健康被害の報告が相次いでいる。2人が死亡し、腎疾患などでの入院も100人を超えた。人工透析が必要な患者もいる。
機能性表示食品として販売していた「紅麹(こうじ)コレステヘルプ」など一部のサプリから「想定していない成分」が検出された。同社が因果関係を調べている。
紅こうじは、カビの一種を使い、米などの穀物を発酵させて作る。古くから東アジアで食品の着色料として使われてきたものだ。
問題なのは、同社の対応が後手に回ったことである。最初に被害の連絡を受けたのは今年1月中旬だった。その後も医師の問い合わせが相次ぎ、今月16日に「想定していない成分」の混入が分かった。
しかし、製品の自主回収を発表したのは、最初の被害把握から2カ月以上たった22日になってからだった。国や自治体への連絡もその直前だったとされる。
小林章浩社長は記者会見で、「判断が遅かったと言われればその通り」と認めた。
影響は同社製品にとどまらない。原料として、国内外の食品メーカーなど52社に販売している。一部が商品の自主回収に動くが、全ての販売先は公表されていないため、国民に不安が広がっている。
まず取り組まなければならないのは、被害の拡大防止だ。小林製薬は購入者を可能な限り特定し、使用中止を呼びかけるべきだ。大阪市は食品衛生法に基づき回収命令を出した。対象商品の回収を急ぐことが重要だ。
同社には約3000件の相談が寄せられており、被害の全容把握に全力を挙げる必要がある。
「想定していない成分」の特定には1~2カ月かかるというが、現在も健康被害で苦しむ人がいる。早急に原因を究明することが欠かせない。
国民の健康を守り、消費者を保護するため、政府は指導力を発揮しなければならない。
「麴(きく)先生」「麴秀才」は昔の中国で使われた酒の異称。「麴(こうじ)」がずいぶん持ち上げられている。穀物をカビの一種で発酵させた麴を使って酒やみそ、しょうゆなどを醸造する技術は東アジアに特有の誇るべき文化だ
▲麴自体も漢方薬の一つだった。薬草などを集大成した明代の「本草綱目」には数種類の麴の記述がある。アドレナリンの発見で知られる高峰譲吉博士が130年前に麴から創製した消化酵素「タカジアスターゼ」は今も使われる
▲蒸した米を原料にした「紅麴」は中国南部の福建省などで酒や調味料作りに使われてきた。赤い色が特徴で沖縄に伝わり、チーズのような伝統食品「豆腐よう」が生まれた。紅麴菌からコレステロール抑制効果のあるスタチンを発見したのがラスカー賞も受賞した遠藤章博士だ
▲紅麴を使ったサプリメントを摂取した人に腎疾患などの健康被害が続出しているという。因果関係が疑われる死者も出ているから、生活習慣病の改善への効果を期待していた人にはショックだろう
▲しかも、事態の把握から公表までに時間がかかった。製造した小林製薬は原料も販売しており、供給を受けた日本や台湾のメーカーが急きょ、商品の自主回収を発表するなど混乱が広がっている
▲長く利用されてきた紅麴に問題があるとは考えたくないが、事態がはっきりするまで手を出しにくい。高名な「麴博士」を輩出してきた醸造王国である。原因究明を急ぎ、伝統の食文化を支えてきた「麴」の汚名返上を図ってほしい。
「紅麹」サプリ 健康被害を全力で食い止めよ(2024年3月28日『読売新聞』-「社説」)
健やかな暮らしを助けるはずの健康食品が、病気の原因になったのでは元も子もない。被害の拡大をできる限り食い止めるよう、関係機関は全力を挙げねばならない。
小林製薬は、 紅麹べにこうじ を使ったサプリメントを摂取した人に腎臓の病気が相次いでいるとして、製品の自主回収を始めた。複数の人が亡くなり、100人以上が入院していたことが判明している。極めて深刻な事態である。
問題のサプリは、血中の悪玉コレステロールを抑えるとうたった「機能性表示食品」だ。1月以降、医師や摂取した人から連絡が相次ぎ、企業側は調査を始めた。
小林製薬は、紅麹原料を他の食品メーカーなどにも供給し、飲料や食品に使われていた。各社が自主回収を始めており、影響はさらに広がる可能性がある。
厚生労働省は小林製薬から事実関係を聞き取り、大阪市は食品衛生法に基づいて、製品の回収を命じる行政処分を出した。企業だけでなく、国や自治体も積極的に全容解明を進めてもらいたい。
原因は現時点で明確になっていない。小林製薬が紅麹原料を分析したところ、一部に意図していなかった未知の成分が含まれている可能性があることが判明した。
製造者さえ把握できていない成分が含まれていたのでは、利用者はますます不安になる。未知の成分とは何なのか、なぜ入っていたのか。調査を急ぎ、健康被害との因果関係を明らかにして、公表することが不可欠だ。
今回、事態の把握から発表まで2か月余りを要した。関係省庁への報告も遅かった。その間に被害が拡大した可能性もあるのではないか。調査中でも速やかに情報を共有すべきであって、対応の遅れについても検証が必要だ。
機能性表示食品は、健康食品の中でも、一定の効果があることを表示して宣伝することが認められており、2015年に規制改革の一環で導入された。消費者が製品を選びやすくする狙いがある。
ただ、国の審査はなく、消費者庁に科学的根拠を届け出れば、企業の責任で表示できる仕組みだ。幅広く販売されているだけに、ひとたび健康被害が起きれば、影響は大きい。機能性表示食品の信頼性を揺るがしかねない。
消費者庁は、6800に上る他の機能性表示食品にも健康被害がないか一斉点検するという。消費者の安全を守るには、企業の届け出だけの制度でいいのかどうか、検討を急ぐ必要がある。
紅麹サプリで被害 混乱拡大防ぐ情報開示を(2024年3月28日『産経新聞』-「主張」)
医薬品、衛生材料などの製造販売を行う「小林製薬」のサプリメントを摂取した2人が腎障害などで死亡した。製品は米麹(こうじ)の一種である「紅麹」の成分を配合しており、効能をうたえる「機能性表示食品」だった。死亡した1人は、製品を約3年間、継続的に摂取していたとみられる。
同社は今月22日、紅麹の成分を含む製品について腎障害を引き起こす恐れがあるとして自主回収を開始した。同社の本社がある大阪市は27日、食品衛生法に基づく回収命令を出した。
何よりも優先すべきは、被害の拡大を防ぐことだ。小林製薬は現時点で把握している情報を迅速に全面公開し、消費者に丁寧な説明を行う必要がある。
サプリ摂取後に入院した人は既に100人を超える。むくみや尿が出にくいなどの症状のほか、一時、人工透析を受けた人もいるという。
林芳正官房長官は会見で「機能性表示食品の安全性に対する疑念を抱かせる深刻なものだ」と述べた。
最大の問題は対応が後手に回ったことだ。患者を診察した医師から同社に問い合わせがあったのは1月だった。同社は2月初旬には「何らかの回収」が必要と判断したと明らかにしているが、そこから自主回収までに1カ月半も要した。
自主回収の目的は、該当する食品のさらなる飲食を防ぎ、健康被害を封じることだ。同社の対応は、食品を扱う企業としての緊張感に欠ける。
健康被害を招いた真の原因物質は特定できておらず、摂取との因果関係もまだ明らかでない。ただ、製品からは製造工程で含まれないはずの未知の成分が検出されており、同社は関係を否定できないとしている。
原因物質の特定を急ぎ、混入の理由や経路を明らかにする必要がある。その作業を国が肩代わりして急ぐことも検討してもらいたい。
市場には混乱が広がっている。小林製薬は紅麹を52社に食品原料として販売したことを明らかにしており、提供を受けたメーカー各社などは自主回収を始めている。
政府は関係省庁連絡会議を開いた。消費者庁は6千件を超える機能性表示食品を緊急点検する。企業、国は協力して再発防止に尽力すべきだ。
健康志向の落とし穴か、サプリで健康被害(2024年3月28日『産経新聞』-「産経説」)
江戸時代の金貨の単位は、「両・分・朱」である。もともとは武田信玄が治めた甲州の貨幣単位で、それを幕府が引き継いだとされる。甲州金の純度は80%を超え、一分金(四分で一両)はその形状から「太鼓判」とも呼ばれた。
▼不純物を除く高度な精錬技術と厳しい鑑定を経て生まれた甲州金は、信用が高かったと聞く。さしずめ良貨の鑑(かがみ)である。貨幣としての「太鼓判」が、転じて「絶対に確実だという保証」を意味するようになったとする巷説(こうせつ)にも、なるほど一理ある。
▼包装には「悪玉コレステロールを下げる」と効能がうたわれ、「機能性表示食品」の記載も。こんなサプリメントが売られていれば、消費者は太鼓判と受け取る。健康志向にまさかの落とし穴だろう。小林製薬の製造した「紅麹(こうじ)」成分入りのサプリで、健康被害が相次いでいる。
▼2人が亡くなり、入院は100人を超えた。同社が最初の被害を把握してから、製品の自主回収まで約2カ月、対応の不手際が目に余る。原因物質はまだ特定に至っておらず、同社の紅麹原料を使った他の製品にまで消費者の不安が広がっている。
▼サプリなど機能性表示食品の市場は成長が著しい。近頃は「心のサプリ」と比喩的な使われ方もする。言葉の響き自体に、人の最も繊細な部分に働きかける効能があるのかもしれない。とはいえ本来は口に入れるもの。万が一にも、安全性が疑われることなどあってはならない。
▼甲州金には、「糸目」という最小単位もあった。これも巷説ながら「糸目をつけぬ(=金品を思いのままに使う)」との相関を聞いたことがある。何はともあれ、小林製薬にとって製品回収と原因究明は焦眉の急、それこそ金に糸目をつけている場合ではない。
アルプスの山中、猛吹雪をものともせず、大型犬のセントバーナ…(2024年3月28日『東京新聞』-「筆洗」)
アルプスの山中、猛吹雪をものともせず、大型犬のセントバーナードが遭難者の救助に向かう。首から下げた小さな樽(たる)の中身は凍える旅人を温めるブランデー…。子どものころからよく聞く話だが、事実ではないそうだ
▼スイスでセントバーナードが救助活動に使われていたのは確かだが、問題はブランデーの方。記録にはなく、創作か勘違いの可能性が高いらしい。怖いことに実際、雪山で低体温症になった人に強いアルコールを飲ませれば温めるどころか反対に体温を下げてしまうという。創作でよかった
▼悪玉コレステロールを抑制すると信じていたサプリなのに…。極めて深刻なこちらの話が創作でないのがつらい。小林製薬の「紅こうじ」成分入りのサプリメントを摂取した人から健康被害の訴えが相次いでいる問題である。既に摂取した2人が亡くなり、入院する人も増えている
▼同社が事態を把握したのは1月11日で製品の自主回収に踏み切ったのが3月22日。これがどうしてもひっかかる
▼原因究明には時間がかかるのは理解するが、2カ月以上。その間も問題のサプリを口にした人がいるはずだ。それでは温まると信じてブランデーを飲み続ける遭難者だろう
▼原因の方も「想定外の成分」とは要領を得ない。それは何か。なぜ、そんな成分が。「徹底解明」という機能性を表示した効き目ある「サプリ」がほしい。
紅こうじサプリ 原因特定し被害拡大防げ(2024年3月28日『新潟日報』-「社説」)
機能性表示食品の安全性に疑念を広げている。原因を突き止め、被害拡大を防がねばならない。
小林製薬(大阪市)の「紅こうじ」を使ったサプリメントを摂取した人に、健康被害が出ていることが分かった。
2人が亡くなり、いずれも腎疾患とみられている。サプリ摂取後に入院した人も多い。健康被害は昨年9月以降に製造された「紅麹(べにこうじ)コレステヘルプ」を摂取した人に偏っているという。
機能性表示食品で健康被害が確認されたのは初めてだ。紅こうじの一部から検出された「カビ由来の未知の成分」が腎疾患につながった可能性があるというが、原因成分は特定されていない。
紅こうじは、血中コレステロール値を下げる効果が期待できるとしているほか、食品の着色や風味付けなどにも使われている。
健康志向の高まりで機能性表示食品の市場規模は伸びており、不安が広がるのは当然だ。
問題を受け、大阪市は3商品の回収命令を出した。同社の紅こうじ原料を使用した製品の自主回収は全国に広がり、中国や台湾では関連商品の流通が停止した。
原因究明の鍵となる成分の特定を急ぐ必要がある。会社側は調査に1、2カ月ほどかかるというが、混乱の長期化を避け、消費者の安心につなげるべきだ。
小林製薬の発信遅れが被害拡大を招いたことも否定できない。
会社側には1月に、サプリとの関連が疑われる症状で入院した患者がいるとの情報が医師から寄せられ、2月6日には小林章浩社長が腎疾患の症例報告が複数あることを把握していた。
当初、海外で被害の報告事例があるカビ毒「シトリニン」の存在を疑ったものの検出されず、原因を特定できないまま、3月22日になって問題を公表した。
小林社長は報告を受けた時点で、何らかの形で回収になるだろうと覚悟していたという。
それならば早急に公表し、使用停止を呼びかけるべきだった。健康被害を招く問題を放置したトップの責任は極めて重い。
産地偽装など、食品の安全を巡るトラブルはこれまでも繰り返されているが、甚大な健康被害が出ることはまれだ。
機能性表示食品は、事業者の責任で健康の維持や増進に関する機能を示すとはいえ、今回の問題で制度全体の信頼が揺らいだ。国の徹底した点検が求められる。
内科専門医は、現状では一部の製造期間の製品に被害が集中しており、他の紅こうじ原料の製品を摂取しても過度に不安になることはないと指摘している。
ただ、尿の出が悪い、手足がむくむなど腎機能で気になる症状があれば、医療機関に相談したい。
消費者は適切に情報を収集し、冷静に行動する心がけが必要だ。
サプリ健康被害 拡大防ぎ実態の把握急げ(2024年3月28日『西日本新聞』-「社説」)
健康に役立つはずの食品で健康が損なわれることがあってはならない。被害が広がらないように関係者は全力を挙げてほしい。
紅こうじの成分を配合した小林製薬のサプリメントを摂取した人に、腎疾患などの健康被害が相次いでいる。
複数の死者が報告され、人工透析が一時必要になった人もいる。入院は100人を超えた。同社には相談が殺到しており、判明した被害は一部に過ぎないだろう。
因果関係は確認されていないものの、特定の製造期間の商品に被害が集中している。
紅こうじは、カビの一種である紅こうじ菌を米に混ぜて発酵させたものだ。血中コレステロール値を下げる効果が期待されている。食品の着色や風味付けなど昔から幅広く使われている。
同社によると「カビ由来の未知の成分」が見つかり、疾患につながった可能性があるという。紅こうじは有毒物質のシトリニンをつくることがあるが、検出されていない。
まずは原因物質を特定する必要がある。厚生労働省も調査に乗り出す。被害の実態把握を急ぐべきだ。
同社は健康被害との関連が不明ながら「予防的措置」として、関係商品を自主回収すると発表した。しかし予防的と言うには対応があまりに遅過ぎる。
被害が疑われる情報を最初に得た1月中旬から記者会見で公表するまで、2カ月以上かかった。この間も被害が広がる危険があると考えなかったのだろうか。
亡くなった1人は2月まで商品を購入していた。人の生命や健康を預かる製薬会社として無責任ではないか。
同社は紅こうじ原料を飲食品関連企業など50社以上に供給していた。各社には商品の自主回収と情報発信の責任がある。連絡が後手に回ったことも非難すべき点だ。
消費者に注意してほしいのは、紅こうじ自体には問題がないことだ。小林製薬と無関係の商品もあり、冷静に対応してもらいたい。
今回の問題は、機能性表示食品による健康被害で自主回収した初めての事例となる。
機能性表示食品は、国が安全性や機能性を審査する特定保健用食品(トクホ)とは違い、事業者の責任で科学的な情報を表示し、消費者庁に届け出れば販売できる。
消費者庁は「機能性表示の安全性に疑念を抱かせる深刻な事態」と受け止め、6千件を超える全ての機能性表示食品を緊急点検する。
機能性表示食品の制度は2015年に始まり、消費者の健康志向を反映して商品数が増えている。サプリメントは種類が豊富で、目的に応じた選択ができるようになった。
ただし、医薬品ではないので摂取の判断は消費者に委ねられる。安全性が揺らぐようでは安心して利用できない。緊急点検後に制度の検証が必要になろう。
紅こうじサプリ 原因究明し情報公開急げ(2024年3月28日『琉球新報』-「社説」)
小林製薬が製造販売した「紅こうじ」を使った機能性表示食品のサプリメントを摂取した2人が死亡した。摂取後に入院した人は100人を超えている。極めて深刻な事態だ。
2015年の機能性表示食品の制度開始後、メーカーが健康被害を公表して自主回収する初のケースとなった。想定と異なるカビ由来の成分が原因となった可能性があるが、特定はされていない。
混乱は全国各地に広がっている。サプリ摂取者の健康被害の実態把握と原因究明を急ぐとともに、消費者の不安を払拭するための的確な情報開示に努めなければならない。
今回の問題で指摘されているのは小林製薬の公表遅れである。紅こうじサプリとの関連が疑われる健康被害の情報を医師から得たのは今年1月15日だった。2月上旬の時点で、小林章浩社長は腎疾患の症例報告が複数あることを把握していたのである。
それにもかかわらず小林製薬が健康被害と自主回収に関する情報を公開し、使用停止を呼びかけたのは3月22日のことである。社外52社に紅こうじ原料を供給していたことを公表したのは24日であった。最初の情報を得て2カ月余が経過している。
健康被害の原因を特定できなかったことが公表遅れの背景にあり、結果的に消費者の不安拡大を招いてしまった。小林社長は「判断が遅かったと言われればその通りだ」と対応の過ちを認めている。
市販食品による健康被害は決してあってはならない。健康をうたう食品ならなおさらだ。消費者の動揺は当然であろう。小林製薬は消費者の声に誠実に対応すべきである。厚生労働省をはじめ政府関係機関も混乱の収拾を図る必要がある。正確な情報の発信を通じて、混乱を沈静化しなければならない。
消費者庁は届け出のある機能性表示食品6千件超を対象に緊急点検する方針だ。制度の信頼性を保つ上で必要な措置である。
機能性表示食品はメーカーの責任で科学的根拠に基づき特定の保健の目的が期待できる旨を表示することができる制度である。国が有効性や安全性について審査する特定保健用食品(トクホ)と異なり、機能性表示食品は国の審査を必要としないが、安全性の確保や適正表示による消費者への情報提供をメーカーに求めている。
消費者の健康志向に対応した制度と言えるが、メーカー側の安全確保や情報提供がおろそかになるような傾向があれば是正されなければならない。場合によっては制度の厳格化を図る必要もある。
混乱は県内の食品メーカーでも一部商品の自主回収が出るなど影響が及んでいる。問題があった原料は使われていないが、メーカー側は風評被害を懸念している。事態の沈静化に向け、県関係機関の対応が求められる。
広がる「紅こうじ」問題 官民で被害拡大を防げ(2024年3月28日『沖縄タイムス』-「社説」)
小林製薬が製造した「紅こうじ」のサプリメントを巡る健康被害問題は、深刻さを増している。
サプリ摂取後に腎臓の病気などを発症した事例が全国で相次ぎ、2人の死亡も報告された。同社によると、入院は106人、会社の窓口には約3千件の相談が寄せられている。
紅こうじは古くから天然の着色料として食品や飲料に使われ、沖縄伝統の発酵食品「豆腐よう」にも利用されている。近年では「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロール値を下げる効果をうたう健康食品が多く販売されている。
小林製薬は、問題となっている紅こうじの健康被害の原因について「カビ由来の未知の成分」とし、まだ特定はできていない。
同社は子会社を通じ、国内食品メーカーなど52社に紅こうじ原料を供給している。幅広い業者が健康被害の恐れがあるとして自主回収の対応に追われるなど、影響が広がっている。
県内でも、小林製薬の紅こうじ原料を使う業者が自主回収を進めている。商品には問題のカビ由来の成分が含まれていないことを確認し、取引先や消費者に説明しているが、不安の声が寄せられているからだという。
他社の原料を使っている業者にも問い合わせが増えており、風評被害を懸念する声がある。
これ以上被害を拡大させないために、原因究明を急がなければならない。正しい情報を積極的に発信し、消費者の不安を払拭する必要がある。
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この問題を巡り不安が増幅している要因に、企業対応のまずさがある。
被害の把握から使用停止の呼びかけまでに2カ月余りかかっており、消費者に情報を伝えるのが遅れた同社の責任は重い。原料を供給した企業への連絡も遅かった。
小林製薬は、原因が判明しなかったため「公表すべきかどうか判断できなかった」としているが、消費者の健康を守ることを後回しにしたと言われても仕方がない。
判明した死亡事例は最近までサプリの摂取を続けていたとみられ、情報の公表の遅れが被害の拡大を招いた可能性もある。もっと早く利用停止を呼びかけるべきだった。
健康被害の原因の特定には、大学などの研究機関と協力した調査で1、2カ月ほどかかるという。
政府や自治体は利用者の不安に耳を傾け、必要なら医療機関への仲介をしてほしい。
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「機能性表示食品」に対する信頼も揺らいでいる。
消費者庁は2015年の制度開始後、メーカーが健康被害を公表して自主回収する初めてのケースだとし、届け出がある全ての機能性表示食品6千件超を緊急点検する。
健康効果や安全性を示す資料を同庁に届け出れば、企業の責任で表示できる制度について、安全性の視点から見直す必要もある。
事業者任せにはせず、国にも原因究明と安全確保の責任がある。官民で被害把握を急ぎ、被害拡大を防がねばならない。