文科省が大学認可を乱発するなどした結果、少子化により大学進学人口が減っているにも関わらず、大学の数は増え続けています。その結果、教育の質は悪くなり、約4割が入学定員割れといった状況が浮き彫りになっています。
本記事では、山田順氏の書籍『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)より、日本の大学が抱える課題について解説していきます。
日本トップレベルの大学も世界大学ランキングでは…
つくづく思うが、いまの日本の大学に行く価値があるだろうか? 日本の学歴、肩書き社会が今後も続き、年功序列・終身雇用制度が崩壊しないという前提でしか、日本の大卒の肩書きは意味をなさない。
日本人の給料が上がらない、経済が長期低迷を続けているのは、大学教育が原因でもある。
日本の大学を出ただけでスキルのない若者に、まともな給料を払う企業はない。大学を出ても世界共通語の英語が話せないのでは、海外の高額給料企業などに入れる見込みなどゼロだ。 海外企業だけではなく、日本企業も同じだ。
つまり、日本の低学歴人材、低レベル人材が、日本人全体の賃金を安くしているのだ。 AIがあらゆる分野で活躍するデジタルエコノミーのこの時代に、必要とされるのは「高度人材」である。
大学教育で言えば、学士(Bachelor)は相手にされず、修士(Master)、博士(PhD)でないと、高給を得られないシステムが世界中で出来上がっている。 ようやく問題視されるようになったが、日本は「高度人材」が少なすぎる。博士、修士号取得者(人口比)は先進国の水準を大きく下回っている。デジタルエコノミーをリードするGAFAは、高度人材を高給で大量採用している。アマゾンには博士号取得者が100人以上いる。
日本の科学論文数の国際順位はかつては世界3位だったが、いまや10位まで落ちた。
もう見飽きたと思うが、[図表1]は「THE」(タイムズ・ハイヤーエデュケーション)の世界大学ランキングトップ20校(2024年版)だ。ここに日本の大学の名はなく、日本の大学の最上位は東大の29位で、毎年のように順位を落としている。同じく、日本二番手の京大は55位。順位と点数が詳しく公表される200位以内に入った日本の大学は、この2校だけだ。
私立の雄とされる早稲田、慶應にいたっては500位以内にも入っていない。 ちなみに、100位以内を見ると、アジア圏では中国が7校もランクインしている。
清華大12位、北京大14位で、東大、京大より上位だ。韓国は3校、香港は5校、シンガポールは2校がランクインし、いずれも日本を上回っている。
すでに欧米圏の大学、いやアジアでも大学教育はリベラルアーツを終えると、デジタル社会に適合した実学教育に移行している。それを日本では、いまだに単なる教養を身に付けるだけのアカデミック教育をやっているのだから、進学する若者たちがかわいそうだ。
大学の赤字を学生ローンで学生に付け回し
それにしても、少子化で進学する者が減るのに合わせ、なぜ大学を減らさなかったのだろうか? 経営が成り立たないのなら、資本主義なのだから自然淘汰に任せるのが自然であり、それがルールだ。
ところが、日本という国は社会主義国家であるため、なんでもかんでも公的資金で救ってしまう。さらに、官僚たちは自分たちの天下り先が確保できるので、新設大学をどんどん認可してきたのである。しかも、「奨学金」という名の「学生ローン」(借金)で、学生に入学金、授業料を払わせ、赤字を付け回している。
少子化で大学入学年齢の18歳人口が減っているのに、大学数は増え続けている。30年前の1992年18歳人口は約これ205万人で大学数は384校。それが2023年は約112万人なのに793校である。では、有名人気校を除いてどの大学も経営が苦しくなるのは当然。現在、3人に1人の学生がローンを背負っているとされ、返済できなくて自殺者まで出ている。学生ローンは学生のためにあるのではない。経営苦の底辺大学を生き延びさせるためにあるのだ。
小手先の入試改革など意味はない
2023年1月25日、文部科学省は中央教育審議会大学分科会で、今後の受験科目の見直しや英語民間試験活用などの改善を求める指針案を示した。その内容を見ると、今回の指針の目的は、高校段階から文系理系に偏らず幅広く学び、大学で文理の枠を超えた能力を伸ばせる大学生の拡大を狙うということのようだ。
現在、国立の入試は原則「5教科7科目」だが、私立は受験生を集めやすくするため、科目数を減らしている。たとえば、慶應義塾大学の経済学部(B方式)などは経済学を教えるというのに、入試必須科目に数学がない(ただし、「A方式」は数学あり)。文科省はこれを是正すると言う。
早稲田大学の政治経済学部は2021年度から数学を入試必須科目にした。だが、私大文系入試に数学を科す動きは広まっていない。また、高校では2年生から、文系、理系にコース分けてしまって受験教育を行っているが、これでは教育に偏りが出てしまうので、是正すべきと言うのである。
さらに、英語では、スピーキング力などを問う英語民間試験を活用する大学が2割程度にとどまって普及していないから、これをもっと活用せよと言うのである。
ざっと指針案を見たが、まったくの小手先の話だ。そんなことより、日本を実力社会につくり変え、官庁と企業に新卒一括採用、年功序列、終身雇用をやめさせれば、大学教育もその下の小中高教育もガラッと変わるだろう。このままでは、日本の若者の将来はかぎりなく奪われる。日本の衰退は避けられない。
世界人材ランキングで最下位グループに沈む
本当に日本が「低レベル人材国家」になってしまったのは、スイスのビジネススクールIMDによる「世界人材ランキング2023」を見ればわかる。毎回のように順位を落とし、いまや対象64カ国中43位と、最下位グループである。
「語学力」や「上級管理職の国際経験」「人材の確保と定着」「外国人材に日本を魅力的に感じてもらえているか」「女性労働力」などに対する評価が低いううえ、「GDP比で見た教育投資」の少なさも、ランキング低下の大きな要因だ。
ちなみに、ランキングトップ10は以下のとおりで、上位は欧州諸国が独占している。アジアではシンガポールがトップ10に入っているだけで、日本は34位の韓国、41位の中国にも敗けている。トップ10以下では、ドイツが12位、アメリカが15位である。
今年は、春闘で33年ぶりに5%以上の賃上げが達成され、日銀のマイナス金利政策も終わったことで、メディアは久しぶりに湧いている。 しかし、低人材しか生み出せない教育を変えない限り、「官制春闘」などいくらやっても無駄だろう。
山田 順 ジャーナリスト・作家
※本記事は『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
【物価高騰⤴「日本の賃金はあまりに低すぎる」――「インフレ」「円安」「増税」の三重苦】
「インフレ税」がやってくる!
・日本の「賃金」が上がらなかった本当の理由
・記録的な「円安」の真因は、日米の金利差
・「EV乗り遅れ」トヨタはテスラを過小評価していた
・3度の「消費増税」が日本経済の壁!
・「少子化」なのになぜ、大学を減らさないのか?
・「欲望資本主義」の限界
・日銀は「金融緩和」を止められない
・インフレ率7%で11年後に「資産価値は半減」する
バブル崩壊以来、日本経済は長期停滞の「デフレーション」がずっと続いてきた。
その結果、物価が上がらないという恩恵はあったが、給料も上がらず、日本人の平均賃金(購買力平価による)は、OECD先進34カ国中で24位まで低下した。いまや、韓国のほうが平均賃金で日本を上回っている。
ここ数年、「なぜ日本の賃金は上がらないのか?」ということが、メディアでさかんに取り上げられるようになった。
「港区の平均年収1200万円はサンフランシスコでは低所得」とまで言われるようになった。
しかし、給料が上がらないのは、「円安」や「少子化」問題と同根で、結局は経済低迷の結果だ。
1980年代末まで世界トップクラスの経済力を誇った日本が、この30年余りでなぜ、ここまで衰退したのだろうか?
家電、PC、携帯電話、半導体など、世界を席巻した産業は、なぜ次々と競争力を失ったのだろうか?
なぜ、1社もGAFAに匹敵するような先進ビックビジネスを生まなかったのだろうか?
この先、私たちを待ち構えているのは、人口減・少子高齢化による、日本経済のパイの縮小と社会保障費の増大、そして増税だ。
〈本書の目次〉
序章 世界の街角から消えた日本人
第1章 スタグフレーションに突入した日本経済
第2章 止まらぬ円安が示す国力の衰退
第3章 間に合うのかトヨタ、致命的なEV乗り遅れ
第4章 国家はなぜ衰退する? 行動経済学の罠
第5章 なぜアベノミクスを失敗と言わないのか?
第6章 若者を食い物にして生き残る大学
第7章 金融バブル崩壊に向かう世界経済
第8章 超重税国家への道
第9章 インフレ税で没収される国民資産
終章 「日本病」の正体
〈プロフィール〉
山田 順(やまだ・じゅん)
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、光文社に入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長を務める。2010年より、作家、ジャーナリストとして活動中。主な著書に、『出版大崩壊』(文春新書)、『資産フライト』(文春新書)、『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『永久属国論』(さくら舎)などがある。翻訳書には『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)がある。近著に『コロナショック』、『コロナ敗戦後の世界』 (MdN新書) がある。