【震災13年 大学の拠点集積】地域振興への貢献期待(2024年3月7日『福島民報』-「社説」)

 東日本大震災東京電力福島第1原発事故の被災地で、復興支援を目的とした大学などの研究拠点の集積が進んでいる。大阪大、東北大、福島大、会津大、郡山女子大、福島高専などが環境放射線の影響や農業・農村の活性化などの調査を繰り広げている。被災市町村と成果を共有して課題解決に資する施策を具現化し、一層の地域振興と復興加速化へつなげてもらいたい。

 福島イノベーション・コースト構想推進機構によると、原子力災害を受けた12市町村と、津波の被害に見舞われたいわき、相馬、新地の3市町に計21機関が拠点を設けている。このほか、福島医大と東日本国際大なども共同研究校として参画し、夏休みなどに活動を展開している。

 大阪、東北両大学が将来的に自前の拠点を設けるという新たな動きも出ている。大阪大は8月から職員2人が常駐し、年間200~300人の学生らが利用する施設を大熊町に構える。2021(令和3)年から町内で環境放射線の影響を調べてきた。ゆくゆくは日常的に学生が集うキャンパスを設ける方針で、未除染の山林での新産業創出や、地域コミュニティーの維持などを研究に加えるとしている。住民帰還や移住の促進、働く場の創出に結び付くような成果を求めたい。

 東北大は、100人超が研究に当たる施設を浪江町に設ける計画を打ち出している。中心部の避難指示が2017(平成29)年に解除された町の復興は緒に就いたばかりだ。町が整備する産学官連携施設の入居企業や大学と一体となって防災、産業振興など直面する課題解決の道筋を示す取り組みに期待したい。

 浪江町に開所した福島国際研究教育機構(エフレイ)では2030年度以降、最大50の研究グループがロボット、農林水産業など5分野の研究を担う。技術開発や産業化を推し進めるためにも、被災地で研究を続ける各大学との連携を強化すべきだ。

 各大学の受け入れ市町村は、学生らに対して災害の脅威や住民帰還の難しさ、帰還困難区域の存在など復興半ばの現状について理解を深める機会を積極的に提供してほしい。被災地に思いを寄せる若者を増やしていく営みは災禍の教訓を次代に伝え、風化を食い止める。(円谷真路)