ふるさと納税 アマゾン参入 矛盾鮮明に(2024年3月26日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 世界的なネット通販大手のアマゾンが、ふるさと納税の仲介事業に参入する準備を進めている。

 来春の始動に向け、全国の自治体に参加を働きかけているという。

 独自の配送網や集客力のある巨大企業の参入で、返礼品目当ての通販ビジネスの側面がさらに強まるだろう。地方を応援し、大都市との税収格差を正すとうたう制度の矛盾は隠しようもない。

 アマゾンの“売り”は、早めに契約して手付金を支払えば、仲介手数料を一定期間、相場より大幅に引き下げるプランのようだ。

 仲介事業は現在、国内の大手4社がほぼ独占している。

 仲介サイトで返礼品の紹介や寄付の手続きができ、販売促進や広告宣伝などのサービスも充実している。多くの自治体が頼みとするようになった。

 一方、手数料は寄付額の1割ほどと高止まりしている。2022年度の長野県と県内市町村への寄付総額は252億円余だった。うち、ざっと25億円余が仲介業者に流れた計算になる。

 手数料を下げるというアマゾンの提案に引かれる自治体は多いに違いない。参入が業界全体の手数料引き下げにつながる―と期待する声も聞こえてくる。

 あらためて考えたい。この制度はどこに向かっているのか。

 ふるさと納税は、意中の自治体にお金を寄付すると、今住んでいる自治体に納める住民税などがその分控除される仕組みだ。

 寄付金の争奪戦が熱を帯び、返礼品は豪華になった。一律2千円の自己負担額だけで高額商品が送られてくる寄付者にはお得だが、寄付先の自治体が返礼品の購入費に充てるのは、回り回って、居住する自治体が行政サービスに使うはずだった税金である。

 初年度81億円だった寄付総額は本年度、1兆円に達する見通しといわれる。その陰で、自治体が税収を奪い合ういびつさ、高額所得者ほど寄付額の上限が上がって得をする不公平さなどの矛盾は放置されてきた。

 税金の使い道を自ら考えるようになる、選ばれるにふさわしい地域づくりが進む―と効用を説く声もある。しかし、競争原理を行政に持ち込み、税制の根幹をゆがめる弊害こそ考えるべきだ。

 大都市と地方の不均衡の是正というのであれば、地方交付税の適正な配分や地方分権によるのが筋である。返礼品選びでなく、地域づくりを応援する取り組みに改めなくてはならない。