自治体の45%が「賃上げ差別」していた…その言い訳は? 非正規の増額は正規に比べて1年遅れの理不尽(2024年4月4日『東京新聞』)

 
 地方公務員の中で「賃上げ差別」が起きている。正規職員は2023年度に民間に準拠して賃上げした一方、非正規職員は全国の半数近い自治体が正規並みの賃上げをしなかったことが国の調査で判明した。非正規だけが賃上げの潮流から取り残されている。(渥美龍太、畑間香織)

◆12月ごろ改定 正規は4月にさかのぼって増額支給するのに

 地方公務員の賃金は、民間の賃金水準を調査した国の人事院都道府県などの人事委員会の勧告に基づき、各自治体が12月ごろに改定する。正規については、各自治体の条例に基づき同じ年の4月にさかのぼって賃上げされる仕組みだ。23年度は民間が大幅な賃上げをしたため、正規の大幅な賃上げに踏み切った自治体は数多い。
 しかし総務省が23年度の非正規の状況を調査(23年12月時点)すると、都道府県や市区町村など全1788自治体のうち、約45%(802自治体)が23年4月にさかのぼっての賃上げをしない方針であることが判明した。このうち年度途中から賃上げする自治体も一部あるが、大半は24年4月に賃上げがずれ込む。
 
 同省は昨年5月、非正規の給与について「改定の実施時期を含め、常勤職員に準じて改定することが基本」との通知を出しており、自治体が守っていない形。非正規を含めた賃上げ分の予算措置もしたといい、同省給与能率推進室は取材に「適切な対応を行うよう促したい」とコメントした。

◆不誠実な言い訳「対応しない理由を探しているかのよう」

 調査では4月にさかのぼっての賃金改定をしない理由も聞いており、「年度中での契約変更が困難」「事務負担が大きい」などと回答した。労働組合自治労連の嶋林弘一氏は「予算措置もされているし、対応しないための理由を探しているかのようだ」と批判する。
 埼玉県所沢市非正規公務員として働くある女性は、年収が200万円台半ば。昨年4月にさかのぼって賃上げしていれば、23年度の年収は10万円程度上乗せされるはずだったが、見送られた。「正規と同じ仕事をしているはずなのになぜ…」と疑問を口にした。
 所沢市職員課はさかのぼって賃上げをしない理由を「(非正規の給与計算をする)委託業者が対応できない」と説明。正規職員については委託ではなく職員が自前で計算しているといい、24年度は非正規も自前での計算を検討するという。

◆全国に約66万人の会計年度任用職員

 この問題の対象となる非正規の地方公務員(会計年度任用職員)は、23年4月時点で全国に約66万人いる。立教大の上林陽治特任教授(公共政策学)は「非正規公務員への対応は常に後回しで、身分差別と言ってよい状況。今の自治体は非正規に支えられているのに危機感がない」と指摘。「人事院勧告の中に非正規に対する言及も加えるべきだ」と提言している。