郵便料金値上げ 利用の低迷を招かぬか(2024年3月22日『北海道新聞』-「社説」)

 郵便料金が10月にも3割超値上げする。定形の封書は消費税増税時を除き30年ぶりの改定である。
 郵便物の減少や人件費、燃料費などの上昇で、郵便事業は昨年度に2007年の郵政民営化後初めて211億円の赤字に転落した。
 値上げを実施しても黒字確保は一時的とみられ、追加値上げが視野に入る。利用がさらに低迷する悪循環に陥りかねない。
 郵便は収益性が低いとされ、郵便局はゆうちょ銀行やかんぽ生命保険金融商品の販売手数料に依存しているのが現状である。
 だが5年前には全国約18万件に及ぶ保険の不正販売が発覚し、厳しいノルマが社会問題化した。
 民営化時に小泉純一郎元首相は「国民の利便を向上させる」と約束したはずだ。国や日本郵政郵便事業の展望を示す必要がある。
 値上げは日本郵政を所管する総務省の審議会が今月答申した。25グラム以下の定形封書の手紙は上限が84円から110円になる。
 省令改正が不要なはがきも63円から85円に値上げする方向だ。昨年10月に値上げしたゆうパックや現金書留の料金は据え置く。
 郵便物はピークの01年度の263億通から昨年度は144億通とほぼ半減している。民営化時の想定を超えネット社会は進展した。
 来月にはトラック運転手の残業規制も強化され、ゆうパックの人材確保も難しくなろう。
 とはいえ手紙やはがきが重要な伝達手段であることに変わりはない。年賀状や時候のあいさつ状は文化や風土に根付いてきた。
 利用減を食い止め、同じ料金で全国に届くユニバーサルサービスをどう維持するか。民営化のゴールである金融2社全株売却などを前に再検証が欠かせない。
 郵便局の数は全国約2万4千、道内約1500と民営化後もほぼ変わらない。このため統廃合でコスト削減を図る意見があるが、広い道内では拠点撤退は地域衰退につながる。慎重な対応が必要だ。
 一方で全国の職員数は2割ほど減少した。効率経営が進む中で土曜配達や平日の翌日配達を取りやめ、サービス低下も目立つ。
 規模を生かした新事業も模索段階だ。17年度には職員による高齢者らの「郵便局のみまもりサービス」を全国で始めたが累計利用は4万件ほどにとどまる。
 ふるさと納税の返礼品に採用する道内自治体の中には「ニーズが乏しい」との声もある。郵便局の強みである地域密着をビジネスにつなげる機能強化も求めたい。