こども性暴力防止法 運用の明確な基準必要(2024年3月22日『秋田魁新報』-「社説」)

 政府は子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴の照会義務などを盛り込んだ「こども性暴力防止法案」を閣議決定し、今国会に提出した。性犯罪歴が確認された場合などに就業を制限することを可能にする内容だ。今国会での成立を目指しており、制度開始は準備期間を経て2026年ごろとなる見通しだ。

 子どもの性被害をどう防いでいくかは大きな課題。本来は子どもを守るべき立場の教員や保育士らが加害者となる例が絶えないのだから深刻だ。被害が心の傷となり心的外傷後ストレス障害(PTSD)などに苦しむ例は少なくない。法整備を性被害根絶への一歩にしてほしい。

 制度は参考にした英国の制度の頭文字を取り「日本版DBS」と呼ばれる。国が性犯罪歴をデータベース化したシステムを構築。学校や保育所などに就労希望者や現職の職員の性犯罪歴確認を義務付ける。学習塾やスポーツクラブなどは任意とするが、国の認定を受けた事業者には同様の義務を課す。

 照会可能な性犯罪は裁判所で有罪が確定した「前科」に限られ、期間は拘禁刑(懲役刑と禁錮刑を2025年に一本化)終了から20年間、罰金刑以下は10年間。前科は不同意わいせつ罪などの刑法犯のほか痴漢や盗撮などの条例違反も含むとした。

 確認作業を巡り犯罪歴などの個人情報が漏えいすることがあってはならない。国は制度構築に当たり、管理や運用について細心の注意を払う必要がある。

 照会によって性犯罪歴が確認された場合、学校や保育所は就労希望者に対し採用しないなどの就業制限を講じる。現職の職員に確認された場合は子どもと接する業務から配置転換することや、子どもと2人きりにならないようにするなどの安全措置を図る。最終手段として解雇も許容され得るとした。

 問題は性犯罪歴がない人の行動に疑義が生じた時にどう対応するかだ。法案はそうした場合でも子どもや保護者から相談があれば学校や保育所が調査し、性加害の恐れがあると判断した場合は同様の安全措置を行えるとしている。だが明確な基準がなければ調査や判断をするのは困難だ。

 政府は調査方法や判断基準のガイドラインを今後策定するとしているが、性加害の恐れとはどういう事態を指すのかなど、分かりやすく納得できる判断基準を示さなければならない。

 恣意(しい)的な運用が行われないよう、制度の導入に当たっては学校や保育所を対象にした研修に力を入れるべきだ。性犯罪歴がある人の社会復帰を妨げるとの指摘もある。更生への取り組み強化は不可欠だ。

 子どもを性犯罪から守ることに異論を挟む人はいないだろう。ただ就業制限という重い措置を伴う上、制度によっては現場に混乱を来しかねないだけに、国会では徹底議論を求めたい。