子供への性犯罪 教育者に適任か厳しく確認を(2024年3月23日『読売新聞』-「社説」)

 わいせつ事件を起こした人物を子供と接する仕事に就かせないようにする新しい制度の議論が始まる。子供を性犯罪から守るため、効果的な仕組みにせねばならない。

 政府は、性犯罪歴のある人が教育現場で働くことを制限する法案を国会に提出した。学校や保育所が教員や保育士を採用する際、国に性犯罪歴を照会し、確認された場合は、子供と接する職場に配置しないよう義務づける。

 国はそのために、照合用の新システムを整備するという。学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者もこれを利用し、職員らの性犯罪歴を調べられるようにする。

 教員や保育士など、教育関係者による子供へのわいせつ事件は後を絶たない。最近も大手学習塾講師による盗撮事件が起きた。再犯も目立っている。被害を食い止めるには、性犯罪歴のある人を子供から遠ざける必要がある。

 英国では、教員らを採用する際に性犯罪歴を確認する「DBS制度」があり、今回の制度は日本版DBSと呼ばれる。

 日本では当初、憲法が保障する「職業選択の自由」との兼ね合いが課題とされた。しかし、英国では、今回の日本の措置より幅広い職業が対象だ。子供の安全を最優先に考えるのは、当然だろう。

 対象となる犯罪は、不同意わいせつ罪や、痴漢や盗撮などの条例違反で有罪となったケースだ。犯罪歴照会は、新規採用者だけでなく、現職教員らも対象となる。

 事件を起こした人物を再び教育現場に立たせないという新制度の導入は、再犯の防止に加え、初犯を抑止する効果も期待される。

 法案作成にあたり、焦点となったのは、性犯罪歴の照会期間だ。刑法では、禁錮以上の刑は、執行後10年で消滅すると定めている。このため、当初は、照会期間も10年を基準に検討されていた。

 ただ、性犯罪は、10年以上後でも再犯が起きるケースが少なくない。政府は今回、確実に再犯を防ぐため20年に延ばした。実態を踏まえた現実的な判断であろう。

 法案では、過去に性犯罪を起こした記録がなくても、子供や保護者から不審な言動の訴えがあり、問題があれば、雇用主が配置転換などを行うよう義務づけた。

 教員や保育士らの大半は性犯罪とは無縁で、子供たちと 真摯しんし に向き合っている。曖昧な制度運用により、こうした教員らが排除される事態は避けねばならない。政府は現場が混乱しないよう、明確な判断基準を示すことが必要だ。