はしかの感染 子どもも大人も対策を(2024年3月24日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 海外からの帰国者などがはしかに感染したとの報告が、国内で相次いでいる。今年に入って少なくとも計15人が確認された。

 はしかは麻疹(ましん)ウイルスによって引き起こされる。日本はかつては流行国だったが徐々に減少し、2015年には排除した状態にあると世界保健機関(WHO)から認定された。

 19年には700人以上の感染が確認されたものの、新型コロナウイルスの流行後は激減した。昨年は28人に増えている。

 海外では各地で感染が拡大している。WHOによると昨年は世界で30万人以上の感染が報告され、前年比80%増となった。特に欧州での増加が目立っている。

 コロナ禍の行動制限が解かれ、人の行き来が活発な今、ウイルスが国内で広がっても不思議はない。再び定着しないよう万全の対策を取りたい。

 感染すると10日ほどで発熱やせきなどの症状が出て、その後高熱や発疹が出る。一度かかると生涯にわたり免疫が続くとされる。

 侮ってはいけない。中耳炎や肺炎を起こしやすく、脳炎で亡くなるケースもある。妊娠中の女性がかかると流産や早産につながる恐れもある。治療の特効薬はない。

 感染力は極めて強く、インフルエンザやコロナの比ではない。空気感染も起きるので、免疫のない人は患者と同じ部屋にいるだけでほぼ確実に感染するとされる。

 潜伏期間が長い点も注意したい。気づかず周囲にうつしてしまうリスクがある。

 2月下旬にアラブ首長国連邦(UAE)から関西空港に到着した航空機に乗り合わせた人の間で、感染が広がった。中には判明前にミュージカルやコンサートを見に行った人もいた。

 厚生労働省自治体は注意喚起を工夫したい。プライバシーに留意しつつ、できるだけ迅速に、具体的な情報提供が求められる。

 有効な予防策はワクチン接種だ。日本では1970年代に定期接種が始まり、現在は乳幼児期に2回組み込まれている。接種率は9割超を維持しているものの減少傾向にあるのが気にかかる。

 はしかは子どもの病気―という思い込みはないだろうか。感染者のほとんどは大人だ。接種制度が変遷を重ねたため、2回受ける機会を得られず免疫がなかったり、不十分だったりする人がいる。

 海外に渡航予定の人は感染リスクが高いと考えるべきだ。妊娠を希望する人や妊婦の家族も接種歴や抗体を確認したい。