4月まであと1週間に迫る中、奈良県議会の予算審査特別委員会で、県の新年度の一般会計予算案が「否決」される異例の事態が起きています。
背景にあるのは、前知事が進めていた防災拠点計画をめぐって「日本維新の会」の推薦を受けて当選した山下真知事が、計画を覆した上で打ち出した「メガソーラー」計画。25日の本会議最終日を前に、自民系の最大会派が予算の修正案を提出するなど、依然として紛糾が続く中、古都・奈良でいったい何が起きているのでしょうか。(報告:櫻茜理、古井林太郎)
■「本当に大丈夫なのか」「反対のための反対」10時間に及ぶ応酬の末…予算案が「否決」される異例の事態
「知事は防災の専門家でもないし、県民の生命と財産を守る決断なので、大きな不安を頂きました」(金山成樹議員)「法的にできないとなったらどうやって後戻りするんですか」(永田恒議員) 「本当に大丈夫なの。せっかく作っても意味ないんじゃないの」(小村尚己議員)
19日に開かれた奈良県議会の予算審査特別委員会。新年度まで2週間に迫る中、県の当初予算案を審議する場は荒れに荒れ、最大会派の「自由民主党・無所属の会」の議員からは知事の計画を批判する声が相次ぎました。
一方の山下知事は「私はこれが正しいと思っています。逆に聞きたいですがどういう点が不安ですか」「対案がないままあかんと言われても、私としたら反対のための反対かなと思わざるを得ないんですよ」などと反論。
10時間を超える審議の末、新年度の当初予算案は最大会派の自由・無所属の会と公明党が反対し、賛成5人・反対6人と、反対多数で否決。時計の針は午後11時半を回っていました。
■『メガソーラー計画』巡り紛糾「五條市民を馬鹿にしている」
背景にあるのが、予算案に含まれている山下知事“肝いり”の新たな「防災拠点」の建設計画です。 奈良県南西部の五條市にある、広大な敷地が広がるゴルフ場跡地。2018年、当時の荒井正吾知事が、災害時に物資や救援隊の中継地点となる拠点をこの場所に整備すると決めました。
2000m級の滑走路や備蓄庫を備えた「大規模広域防災拠点」です。
ところが、2023年の奈良県知事選で、自民党奈良県連が別の候補を推薦したため、5選を目指した荒井氏との間で“保守分裂”となり、漁夫の利を得る形で、維新候補の山下氏が当選を果たし、大阪以外で初めて、維新の公認候補の知事が誕生します。
「改革路線」を掲げた山下知事は、就任直後から荒井前知事が進めていた事業の見直しを図り、去年6月、世界遺産の平城宮跡を横切る近鉄奈良線の移設計画など、29の事業について、プロジェクトの全面中止を含む予算執行の見直しを発表しました。今回の大規模広域防災拠点の見直しもその1つでした。
山下知事は、五條市の予定地には防災ヘリポートや備蓄庫は整備するものの、2000m級の滑走路を建設するのは取りやめ、その代わりにメガソーラーを設置して、災害時に自立した電力を供給できるよう計画。さらに、新たな防災拠点は橿原市に整備することを打ち出しました。
■「市民を馬鹿にしている」住民も猛反発 議会は自民会派が過半数に対し維新は3分の1に届かず
知事が打ち出した事業見直しに、猛反発したのが五條市の住民です。 「元々3年も4年もかけて進めてきた話が水の泡になるんですよ」「急に説明もなく計画を変更するなんて五條市民を馬鹿にしている。何がメガソーラーや!」 長年にわたって地元との間で協議が進められた防災拠点計画の突然の変更に、2月に行われた住民説明会では、知事の批判が相次ぎました。 県議会でも「本当に地元と真摯に向き合うつもりはあるのか」と議員から問われるなど、山下知事の姿勢を批判する声が上がりましたが、それでも山下知事は「前知事の発想そのものが誤っていた。意見交換はさせて頂くが現計画を変更するつもりはない」などと強気の姿勢を崩しませんでした。 ただ、地方議会では、不信任決議が可決された場合などを除いて、総理大臣がいつでも衆議院を解散できるような「議会解散の専決権」を首長が持っているわけではありません。 定数が43の奈良県議会において、最大勢力の「自民党・無所属の会」は過半数を超える22人。山下知事を支持する「日本維新の会」は第2勢力ではあるものの14人で、3分の1にも及んでいまんせん。 特別委員会での予算案否決に対し、「自民党・無所属の会」の幹部は、「事前のお伺いもなかった。知事は物事の進め方がなっていない」と突き放します。
■自民・無所属の会が修正案を提出「100%ダメだと言ってない」知事が「再議」を求める可能性も
「知事の言っていることが100%ダメだと言っているつもりはありません。お互いの良い所を取り合って、より良い県政運営・防災拠点ができることが一番の目的」(22日の記者会見・川口延良議員)
予算案の否決を受け、「自民党・無所属の会」は21日、修正案を議会事務局に提出しました。修正案では、五條市や橿原市などの防災拠点を検討する費用などを白紙に戻し、県としてより適切な防災体制を構想し直すための費用に修正することなどが提案されました。
これに対し、山下知事は22日、「修正案を出されて県民生活への影響を最小限に食い止めようとされること自体は、議会としても一定の県民に対する責任を果たそうとする心の表れではないかと受け止めている」と話す一方、五條市にメガソーラーを整備する計画については「(方針に)変わりはない」と強調しました。
修正案は、25日の本会議最終日で採決される予定です。修正案は「自民党・無所属の会」が過半数を握るため、可決される公算は高い状況です。
一方、山下知事は議決をやり直す「再議」を求めることができます。地方自治法により、通常であれば過半数の賛成で議案が可決されるのに対し、再議の場合、3分の2以上の賛成が必要となります。「自民党・無所属の会」にとって、維新以外の他の会派全員が賛成に回らなければ、再可決しません。また、県が当初の予算案を修正し、再び議論する可能性も残されています。
山下知事と県議会の泥沼の戦いに、自身も知事を務める日本維新の会の吉村洋文共同代表は22日、記者団に対し「僕らも都構想のときもガチンコでやってきました。ぶつかりあうことが僕は悪いことではないと思っています」とした上で、「大事なのは奈良にとって何が一番いい選択肢なのか。奈良県にとって最も適切な結論を出してもらえればと思います」と語りました。
予算案には「高校の授業料無償化」をはじめ、県民の生活にも直結する様々な事業が含まれています。まもなく新年度を迎える中、双方の溝は埋まらないまま、奈良県政史上、稀にみる混迷の様相を呈しています。
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