国基準の2倍の保育士を配置している認可保育所を1月10日公開記事「保育士が『基準の2倍』いる認可保育所、『週休2日、残業ゼロ』で倍率14倍の人気職場に」で取り上げたところ、「具体的な方法を知りたい」などと多くの質問が寄せられた。手厚い保育の実現のため、どんな工夫をしているのか。詳細を改めて聞いた。(奥野斐)
◆自治体の独自補助をフル活用
1月10日公開記事で紹介した「Picoナーサリ和田堀公園」(東京都杉並区)。取材した5歳児クラスは全23人の児童に対し、担任の保育士が2人いて、フリーの保育士も手伝っていた。国の最低基準では、5歳児は保育士1人で30人を受け持てる。運営する社会福祉法人「風の森」統括の野上美希さん(47)は「行政の補助制度を一つ一つ調べて活用している」と言う。
「風の森」が六つの認可保育所を運営している杉並区は、区の要件を満たした上で常勤保育士を国基準より多く置くと1人当たり月40万円余▽常勤の事務職員を雇うと月29万〜31万円▽看護師を置くと月43万〜52万円—などを支給。これらの活用で、園児のケアの充実や、保育士の事務負担減につなげている。
◆「60分休憩、残業なし、完全週休2日」も掲げる
東京都には、小中高校生の育児体験を年10回以上実施すると年60万円▽保育士実習生を年6人以上受け入れると年80万円—という制度がある。情報通信技術(ICT)化推進の区の補助金や、男性の育休取得や女性の就業継続への都の支援も申請している。
野上さんは「東京は地方と比べ、行政の支援が手厚い。常にアンテナを高くして情報を得る努力と、マネジメントが必要」と話す。
こうした工夫で、保育士の賃金を下げることなく国基準の2倍の保育士の配置を実現。都のウェブサイトによると「風の森」が運営するある園の経験5年の副主任保育士のモデル賃金は、月額29万1100円(2021年度)。厚生労働省調査では、東京の保育士の平均給与(同年度)は残業代込みで月額29万8600円なのでほぼ同水準だ。
補助金や支援は自治体によって制度も申請方法も異なる。保育所にとっては手続きは負担だ。全国保育団体連絡会の実方伸子副会長は「制度に詳しい事務職員がいない、保育士の勤続年数の条件を満たせないなどの理由で申請できない園もある」と指摘。「そもそも国の基準が低すぎて、人もお金も足りず、現場が回らない。国基準や運営費の引き上げが必要」と強調した。