国は4月に保育士1人がみる4、5歳児の数を現行の「30人」から「25人」とし、より手厚い保育を目指す。76年ぶりの基準見直しとして注目される一方で、保育現場では「見直しは不十分」という声が上がる。【御園生枝里】
◇1人で12人をみている園
「『1対25』では保育士の配置は全く足りません」。茨城県守谷市と龍ケ崎市で保育園5園を運営する社会福祉法人「山ゆり会」法人本部長の松山圭一郎さん(45)は、こう語る。
グループの各園では、保育士1人がみる4、5歳児の数は12人。「25人を1人でみていて、保護者からの電話があったら、その間は誰が見るのでしょうか。保育士が複数いないと成り立ちません。12人が現実的だと思います」と指摘する。
◇保育士どうやって確保?
だが、こうした保育を実現するには、保育士の十分な確保が課題となる。今回、国が「当分の間は従前の基準(30人)で運営することも妨げない」と経過措置を設けたのも、かねて指摘される保育士不足に対応するためだ。
では、山ゆり会はどのように保育士を確保してきたのか。松山さんは「職場環境」「待遇改善」の重要性を強調する。
東京で不動産開発の仕事をしていた松山さん。両親が創設した園の運営に2009年から携わり、当時の職場環境は「想像以上にひどかった」と振り返る。
パソコンは各園に2台しかなく、連絡ノートは保育士が手書きで行っていた。子どもの様子を写真に収めては写真店で現像し、子どもごとに振り分けて現金で集金……。保育士は、子どもの面倒をみること以外の膨大な作業に追われていた。
「働きたくない」。結婚や出産を機に複数の保育士が職場を離れていくことにショックを受けた。
◇デジタル化で職場環境を改善
松山さんは改革に着手した。最初に取り組んだのはICT(情報通信技術)の導入だ。保育士1人にスマートフォン1台を用意し、連絡帳アプリを活用して事務作業を軽減した。保護者は写真を手軽にダウンロードできるようになった。
保護者からの現金の徴収では「10円足りない」といったストレスや手間があったが、キャッシュレス化で解決した。
また、リズム遊びや食育、障害児など各分野の「専門リーダー」を設け、専門性を磨いた保育士が管理職に進まなくても仕事を続けられるよう手当を支給し、キャリア支援にも取り組んだ。
クラスを担当しないフリーの職員も各園に2~4人配置した。松山さんは「この存在が重要で、保育士が事務作業に集中できたり、有給休暇が取りやすかったりする効果があります」と話す。
かつて保育士の数は国の基準と同じだったが、職場改善を図りながら採用を増やしていき、一度辞めた保育士も戻ってきた。保育士に保護者や元保護者が多いのも特徴だ。
松山さんは、独自の手当や家賃補助の支給などで保育士確保に力を入れる自治体を念頭に「東京や近隣の千葉県の自治体と比べると、お金(給料)では勝てませんが、居心地がいい環境を整えればなんとかなるものだと感じています」と話している。