品川区は「学用品」も新学期から無償化 地方から注がれる羨望のまなざし、拡がる格差に識者は(2024年3月4日『東京新聞』)

 東京都品川区は、区立小中学校と義務教育学校の児童生徒が使う「学用品」の全額無償化を所得制限なしで新年度から始める。区によると、所得制限なしの完全無償化は都内初で全国的にも珍しい。区など都内の各自治体で進む給食費の無償化と同様に、税収の豊かな都市部を中心に広がる可能性があるが、財政難に苦しむ多くの自治体との間で保護者負担の格差は広がる一方だ。専門家や教育現場からは「国が一律に導入するべきだ」との声も上がる。(奥村圭吾)

 学用品 児童生徒が学習や学校生活に使用するものの総称。絵の具や彫刻刀などの文房具、理科の実験キット、音楽のリコーダー、家庭科の裁縫道具といった実習材料などが含まれる。購入費は各家庭が負担する。専門家によると、新型コロナウイルス感染拡大によるリモート学習の広がりでタブレット関連品などの購入も進んでおり、コロナ禍前後で1.3倍ほどに増加している。

◆絵の具やアサガオの栽培キットなど9年間で計25万円

 無償化の対象は、区内に46ある区立学校に通う小学1年~中学3年の約2万4000人。学用品のうち、書道用具や絵の具、学習ドリル、彫刻刀、アサガオの栽培キットなどの補助教材を無償化する。これまで補助教材は学校で一括購入し、各家庭から費用を徴収してきたが、2024年度からは区が全額を各校に交付する。一方、個人で購入する筆記用具や体操着、上履きなどは対象外となる。
 
 区は、1人当たりの補助教材費を年間1万1000円~3万9000円と想定し、24年度当初予算案に5億5000万円を盛り込んだ。
 文部科学省の21年度の「子供の学習費調査」によると、学用品の1人当たりの年間費用は公立小で2万4200円、公立中で3万2300円。単純計算すると、小学校6年間で約14万5000円、中学校で9万7000円となり、9年間で約25万円が家計にのしかかる。
 こうした家庭の負担を軽減するのが補助教材の無償化だ。森沢恭子区長は予算案発表の記者会見で「憲法で義務教育は無償とする原則が明記されている。社会全体で子育てを支えたい」と意義を強調した。
 品川区で子2人を育てる40代主婦は「給食費も無償になり、さらに所得制限なしで学用品代を負担してもらえるのは家計が助かる」と歓迎する。

◆義務教育内で広がる地域格差「国がやるべき」

 一方で、都市部と地方の保護者の負担に不公平感も出てきている。愛知県内の60代の男性教員は「地方では給食費ですら無償になっていないのに…」と驚く。義務教育で地方都市との格差が広がり過ぎるのは「違和感がある」としつつも、「新しい支援に挑戦する自治体がなければ、いい取り組みが全国に広がっていかないのも事実だ」と前向きにとらえる。
 千葉工業大学の福嶋尚子准教授(教育行政学)は品川区の試みについて「近年は教材も高額化しており、家庭の負担は増している。今回の施策は非常に重要な意味を持つ」と評価する。
 その上で「予算の縛りができることで、教員の教材選択の自由が狭まる可能性がある。時代に合わせて、予算額を柔軟に改めるなど、教員が本当に子どもたちに必要な教材を選択できる制度にしていってほしい」と指摘。自治体間の格差にもつながることから「本来は教科書と同じく、国が全国一律に無償化を進めるべきだ」と訴える。