まずは顔を上げて(2024年3月23日『中国新聞』-「天風録」)

 広島市出身のピアニスト萩原麻未さんは音楽の高校受験で第1志望に通らなかった。昨秋、中学生向けの演奏会で語っていた。コンクール入賞の実績はあったが好不調の波が激しく、実技の試験がうまくいかなかったらしい

▲国立の有名校で狭き門だ。それでも同じピアノの先生に師事する歴代の先輩は、ほぼ全員が合格していた。さぞ落ち込んだだろうと思いきや、ひと味違う。「特別な人生を歩めるのかも」とすぐ前向きに。パリ留学を経て23歳で世界的な賞に輝いた

サクラサク春は近いのに、望む進路がかなわなかった人もいるだろう。就職氷河期世代の当方は、入社試験で多くの会社から冷たくあしらわれた。何度も人生を全否定されたような気持ちになったことが思い出される。毎日つらくて明るい将来を描けなかった

▲ただ数々の挫折が、己を見つめ、世の中を知る貴重な機会になってきたのは間違いない。周りを見渡せば、進学や就職に失敗しても自分の進むべき道を見つけた人はたくさんいるはずだ

▲雨の日があれば晴れる日もある。喜劇王チャップリンは言った。「下を向いていたら、虹を見つけることはできないよ」。まずは、顔を上げてみようよ。