地域の男女格差 抜本的な改善策講じよ(2024年3月8日『秋田魁新報』-「社説」)
きょう8日の国際女性デーに合わせ、国内各地域の男女平等度を示した2024年の「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」が公表された。政治、行政、教育、経済の4分野で分析しており、本県の全国順位はいずれも30位台にとどまった。
日本は世界の23年の男女平等度ランキングで、146カ国中、過去最低の125位だった。世界で低位にある日本にあって、本県は遅れを取る地域ということになる。この結果を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。多様性ある社会の実現を目指し、男女格差の是正に向けた抜本的な改善策を講じなければならない。
都道府県版の指数は、上智大の三浦まり教授らがつくる「地域からジェンダー平等研究会」が算出した。公表は今年で3年目。指数が「1」に近づくほど男女格差が小さく、「0」に近づくほど格差が大きい。地域ごとの現状を把握することができ、公表の意義は大きい。
本県は政治32位(指数0・168)、行政30位(0・261)、教育38位(0・566)、経済34位(0・418)という結果だった。いずれも前年に比べ数値は上昇したものの、順位は低下。他の地域より改善の度合いが小さかった。
県や市町村、教育、企業の関係者は今回の結果を分析し、改善への取り組みに生かす必要がある。特に組織の意思決定に関わる立場にいる人たちは積極的に行動してもらいたい。
分野別で見ると、政治分野では、23年県議選を経て、女性の県議が1人増え6人になった。ただ、割合は2割に届かない。女性の市町村議は前年と変わらず43人で、女性議員がいない「女性ゼロ議会」は4議会ある。
男女均等には遠く及ばず、政党などは対策を一層進めるべきだ。制度改革を含め、国会での議論も求められよう。
行政分野で気がかりなのは、県庁の大卒程度採用の指数が全国で最下位だったことだ。審議会委員の指数も最下位となった。一方、県職員の育児休業取得率の男女差は最も小さかった。男性も育休を取る意識が職場で広まっていることがうかがえる。
教育分野では、小中学校や高校の校長への女性登用に大きな変化は見られなかった。経済分野では、フルタイムの仕事の男女間賃金格差が約7万円あった。企業は格差縮小に努めるべきだ。
全国に目を向けると、県として女性登用に長年取り組む鳥取が行政分野で3年連続1位となった。教育分野は、校長の女性比率が高い広島が1位。こうした先進地の施策は参考になるのではないか。
人口減少が急速に進む本県では、若い女性が男性以上に流出している現状がある。女性にとって働きやすく、魅力のある職場づくりの充実を求めたい。官民を挙げて取り組みを加速させることが必要だ。
共働きの夫婦でどちらかが早く午後6時に退勤したとする。保育所に子どもを迎えに行って夕食を作る。7時半ごろ食べ始められればいい方か。食器を片付け、風呂に入れて…。9時までに寝かせるのは難しい
▼1、2時間の残業でも日常の家事育児には大きく響く。息つく暇もない子育て世帯は多いはずだ。夫婦で負担を分かち合うには互いに仕事の時間を削り、家事育児に振り向ける必要がある。職場の理解が欠かせない
▼県内女性の賃金は男性の7割にとどまる。女性は管理職が少なく、非正規労働者が多いことが要因と考えられる。男性が長時間働き、女性は働いてなお家事育児を担う傾向がうかがえる
▼望む家庭の姿はそれぞれだろう。だが昨日の本紙で、上の役職に就くことに不安を覚える県内の女性会社員が紹介されていた。長時間労働の男性上司が多い職場だそうだ。家庭を顧みず働くことが当然視される社会の風潮が女性にキャリアを諦めさせ、格差を生んできた面はないか
▼先月29日、99歳で亡くなった女性史研究家もろさわようこさんは、女性が受けた差別や生きづらさと向き合い続けた。1978年の講演でこう述べている。「差別をなくすことを口で言うことはやさしい。けれど、それを日常次元で実践するには、自己革命が必要」(「いのちに光あれ―女性史と差別」径書房)
▼一人一人が意識を持つとともに、それぞれの職場でも何ができるかを考える機会にしたい。今日は国際女性デー。
国際女性デー/無意識の思い込み見直そう(2024年3月8日『福島民友新聞』-「社説」)
きょう3月8日は、国連が定める「国際女性デー」。これまでの慣例や価値観について社会全体で適切かどうか考え、女性の権利向上につなげていきたい。
世界経済フォーラムが昨年発表した各国の男女平等度を順位付けした2023年版「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」で、日本は調査対象の146カ国中125位にとどまった。前回調査より順位を下げ、過去最低を更新した。政治、経済、教育、健康の4分野のうち、特に政治と経済で順位が低いことが大きな要因だ。
総務省の22年の調査によると、働く女性の数は3035万人と、前回17年の調査から121万人増え、女性の就業率は53・2%で過去最高だった。育児や介護をしながら働ける環境整備が図られ、女性の社会参画は進んでいる。しかし、国際社会の中ではその速度が遅く、取り残された格好だ。
議会や会社などの組織でリーダーの立場にある女性が少なく、家事や育児のため自身のキャリア形成を断念する人も多い。女性の非正規雇用は多く、男女間の賃金格差を招いている。こうした厳しい実態に目を向け、一人一人の考え方、社会や組織のルール、仕組みを変えていかなければならない。
県が実施した意識調査で「地域で女性の社会参画が進んでいる」と考える県民の割合(22年度)は23・7%と、前年度から1・9ポイント減少した。県は「固定的な性別役割分担意識が根強く、家庭や地域の習慣、しきたりで男女の不平等感が高い」と分析している。
福島民友新聞社などが先月開催した女性活躍を考える公開座談会では、パネリストから、旧来の価値観や考え方に根差した「無意識の思い込み」が女性の活躍を阻んでいるとの指摘が相次いだ。
無意識の思い込みは、若い女性の首都圏などへの流出につながっている。伝統的な価値観やしきたりが残る地方を敬遠し、職種や働き方の選択肢が多く、自らの能力を発揮できる大都市に活躍の場を求めている―とみられている。進学などで県外へ転出した後、卒業しても故郷に戻る女性が少なく、若い世代の未婚者で男女の人口バランスが崩れている。
人材不足の危機にある地方こそ、女性が能力を発揮できるような環境づくりが大切だ。官民で取り組みを強化する必要がある。
女性の権利向上の重要性は理解していても、実際に行動しなければ何も変わらない。まずは家庭や地域、組織など身の回りにある習慣や観念が女性の生き方を制約していないか考え、見直したい。
国際女性デー 能力発揮しやすい社会に(2024年3月8日『産経新聞』-「主張」)
きょう8日は「国際女性デー」だ。
国連が1975年に提唱し、77年の国連総会で議決した。女性の地位向上や女性差別の払拭などを願った取り組みが、世界各地で毎年行われている。
イタリアでは3月8日に男性が女性に感謝の気持ちを込めてミモザの花を贈るならわしがあるため、「ミモザの日」と呼ばれるようにもなった。
女性を巡る課題の解決を進め、職場でも家庭でも、女性の個性と能力がより発揮できる日本にしたい。
男女の賃金格差は依然大きく、厚生労働省によると、女性の平均賃金は今年1月時点で、男性の69・5%にとどまった。要因には、女性の非正規雇用の比率の高さや、女性管理職の少なさが指摘されている。
経済協力開発機構(OECD)の国際比較では、日本の企業の女性役員比率は一昨年15・5%で、先進7カ国(G7)中、最下位だった。
政府は東京証券取引所の最上位市場に上場する企業の女性役員比率を、令和12年までに30%以上にする目標を掲げている。国家公務員については本省の課長級の女性割合を、7年度末までに10%にすることを目指している。男女の格差是正の機運を全国に広げることが重要だ。
女性特有の健康問題の解決に向けた取り組みも一層進める必要があろう。企業は柔軟な働き方ができる制度を整備しているか、男性従業員の理解は深まっているかなどについて再点検してはどうか。
セクハラや妊娠・出産、育児休業に関するハラスメントなどの都道府県労働局への相談は絶えない。セクハラ被害は男女ともにあるが、女性に目立つのは確かだ。社会全体で「女性を守る」という意識を高めることが欠かせない。
LGBTなど性的少数者への理解増進法が昨年成立したが、女性の安全、安心を確かなものにしなければならない。女性だと自認する男性が、女子トイレなど女性専用のスペースに入る恐れは払拭されていない。政府と自治体はこの問題への対応も急いでもらいたい。
世界に目を転じれば、アフガニスタンなどで女性が抑圧されている現実がある。日本外交には、改善に向けた働きかけが求められる。
女へんの字と国際女性デー (2024年3月8日『産経新聞』-「産経抄」)
「嫉妬」という字を先日のコラムに書いたところ、甲府市の女性から耳が痛いご指摘をいただいた。「女が病んで石になる。『しっと』は女だけの感情なのでしょうか」。女偏の字が当てられることに気分を害されたようである。
▼正直に打ち明けると、思慮がそこまで至らなかった。うかつな筆をまずお詫(わ)びする。妄想、奸計(かんけい)、妨害、媚態(びたい)。負の感情を伴う言葉はなるほど女の付く字が多い。作家の吉永みち子さんが同じ疑問に行き当たり、自著『女偏地獄』で考察している。
▼人の出世や恋の成就をうらやみ、心のどこかでつまずきを願う。その感情に男女の別はない。長らく女性には「何かに転化して、堂々と真っ向勝負できる乾いた土壌」がなかった。「湿った土壌で繁殖していく思い」を、負の記号として男から押し付けられたのではないか、と。
▼女偏の字ができた時代と比べ、女性の足場が大きな改善を見たのは確かだろう。とはいえ大学入試における女性差別が露見したのはつい先年のこと、種々のハラスメントもなくなる気配がない。きょうは「国際女性デー」、社会の宿題は山積みだ。
▼女性管理職の割合を引き上げるにも、仕事と生涯のイベントが折り合える環境が必要になる。結婚、出産、育児、家事。一つでも男性がそっぽを向けば真っ向勝負の妨げになろう。女性特有の体調の変化にも男性の理解が要るし、制度設計に女性が深く関わることも欠かせまい。
▼「国際女性デー」とはいうものの、実は世の男性のあり方を問い直す日でもあるのだろう。女性の前途に立ちふさがる男性が、それでも減らなければ…。「妬(ねた)み」や「嫉(そね)み」の字を「男偏に変えていただきましょうかね」。吉永さんの示す処方箋に同意する。
フェミニズムが持つ力 国際女性デーに考える(2024年3月8日『東京新聞』-「社説」)
「本の街」東京・神保町の近くにある古書と喫茶「あめにてぃカフェ 梨の木舎」。店主の羽田ゆみ子さん(76)らが太鼓を鳴らしながら通行人に無料コーヒーを振る舞っていました=写真。反原発、反戦、アジアの国々との共存をテーマにした店内。「国際女性デー」が近づき、フェミニズム関連の書籍棚が新設されました。
フェミニズムはフランスでの女性の権利獲得に始まり、性差別的な抑圧や搾取からの解放を求める思想や運動です。日本では明治末期からの婦人解放運動を率いた平塚らいてう、戦後の婦人運動、1970年代のウーマンリブなどに影響を与えました。
近年は「#MeToo運動」とともに出版も目立ち、フェミニズムへの関心が再燃しています。
男女不平等という理不尽
女性たちが大きなテーブルを囲んで、出会い、語り、力を与え合う。梨の木舎は羽田さんが求めてきた場でした。原体験は農家だった故郷、長野での生活です。
3人きょうだいの羽田さんは子どものころから、家も田畑も将来は兄のものだと大人たちが話すのを理不尽だと思っていました。
男女は平等だと学校では習ったけれども、家では違う。自分はここにいるのにいない、という疎外感を覚えたそうです。
学生運動が盛んだった60年代、大学に入ったものの女子学生は少数派。卒業後も男子のような就職先はありませんでした。
転機が訪れたのは出版社で働いていた80年代。日本がかつて中国やアジアに行った「侵略」を、文部省(当時)が「進出」に改めさせたとメディアが報じた問題でした。
羽田さんは日本人男性の買春観光に反対する市民団体「アジアの女たちの会」に参加。戦後も経済力にものをいわせてアジア女性の性を搾取するのかと加害と性の視点で国家を問い始めます。羽田さんのフェミニズムの原点です。
女性の人権を顧みない状況は21世紀に入っても変わりません。
男女平等政策は、伝統的家族観に固執する保守派議員の反対で停滞しています。選択的夫婦別姓も実現せず、婚姻時に改姓するのは今も9割以上が女性です。
コロナ禍の2020年秋、東京・渋谷でホームレスの女性が撲殺される事件が起き、女性の貧困問題に注目が集まりました。非正規労働の多さ、男性との賃金格差、低年金…。そのどれもが女性の生きづらさにつながります。国内外から問題を指摘されながら、政府は手をこまねいてきました。
世界経済フォーラムが発表した男女平等達成度の国際順位で日本は昨年125位。政府や国会は、女性に対する差別や抑圧が当然ではないと気づくべきです。
「それがフェミニズムだった」
アクティビストの石川優実さん(37)は言います。ある会社で働いていたとき、女性だけヒールの高い靴を履くよう言われ「なぜ女性だけが」と思います。その違和感をきっかけに仲間と始めた「#KuToo」運動は共感を集め、広がっていきました。
中部地方出身の石川さんの地元では、女性の結婚や出産は早く、石川さんの選択肢に大学進学はありませんでした。高校卒業後、俳優業など非正規職で働きましたが経済的には苦しく、仕事上で性被害に遭っても「自己責任」と片付けられました。
30歳を過ぎてフェミニズムに出会い、女性であるがゆえに抑圧されてきたことを自覚したのです。性被害にも声を上げました。
フェミニズムを「縁遠い」「堅苦しい」と思う人たちにこそ知ってほしいと、貸店舗でコーヒーを飲みながら語りあう活動を始めました。「結婚したいけど名字は変えたくない」「パートナーが家事をしない」。恋人や家族関係、仕事に悩む声を聞きながら、フェミニズムには彼女たちの背中を押す力があると感じています。
公正な社会築くために
フェミニズムは女性のものだと思われがちですが、差別され、抑圧される側で鍛えられた思想や運動は、公正な社会を築くために幅広く生かせるでしょう。
性的少数者(LGBTQ)や障害者、在日外国人、アイヌ民族など少数派の人権や、基地、原発など社会問題を考える上で、その視点は役立つに違いありません。
戦時中、女性の解放を求める女性たちが進んで戦争に協力したことは苦い歴史ではありますが、同じ轍(てつ)を踏むことなく、性別や立場を超えて、フェミニズムを「自分が自分らしく」生きるために「自分を支える」杖(つえ)としたいのです。
国際女性デー/「共感する力」を育てる社会に(2024年3月8日『神戸新聞』-「社説」)
きょうは「国際女性デー」である。性別で差別されないジェンダー平等の社会を目指して、国連が1975年に定めた。
男性には関係ない、と思う人がいるかもしれない。しかし、「男のくせに」「女らしく」などという言葉が象徴するジェンダー観は、女性だけでなく男性にとっても窮屈だ。生き方を狭める枷(かせ)にもなる。
だから、一緒に考えたい。性別にまつわる世間の「常識」に知らず知らずに縛られていないか、家族や恋人など身近な異性を理解しようとしているか-。
向き合い方のヒントを探ろうと、ジェンダーの問題に取り組む教育現場を訪ねた。
◇
女性の生理、性的同意、デートDV(恋人間の暴力)。
男子校の私立灘高校(神戸市)では、文系の3年生の公民でこうしたテーマを取り上げる。2022年度からは外部の専門家講師に加え、近隣にある甲南女子大学の国際学部多文化コミュニケーション学科の学生が参加している。
例えば、生理。さまざまな生理用品を灘高生に手にとってもらい、実際にどのような体調になるか、どんな配慮があれば女性はうれしいか、などについて班ごとに大学生と意見を交わす。
多様な視点を知る
「生理痛には個人差があり、相手をよく知ることが大切だと思った」。生徒たちの感想だ。参加した大学4年生は「固定観念で決めつけるような反応が返ってくるのではと心配したが、私たちの意見を真剣に聞いて考えてくれた」と振り返る。
灘高の池田拓也教諭は「男子の進学校という同質性の高い環境だからこそ、多様な視点に触れてほしい。社会の半数を占める女性に目を向けることは特に重要」と話す。
自分とは異なる他者に共感する力が鍵となるのだろう。
甲南女子大側も高校生との学びに手応えを感じていたところに、思わぬ騒動が起きた。
昨年秋、灘高の授業がネットメディアで報じられると、女子大生と性的合意や生理の話なんて…などと揶揄(やゆ)するようなコメントがネットに多数投稿されたのだ。中高年とみられる男性にまじって「そんな授業を息子には受けさせたくない」と一方的に非難する女性もいた。
担当する高橋真央教授は身構えたが、女子学生たちは冷静だった。3年生の一人は「若い世代の意識は変化しているのに、女性蔑視的な価値観のままの大人が多いんだなと実感した」と語る。ネットの反応はゼミの教材に使った。政治をはじめ、意思決定の場に女性の声を反映させる必要性を再認識したという。
男性にも苦しみが
若い女性が都会へ出て行って戻らず、地方の人口減が進む-。多くの自治体が抱える悩みを、前豊岡市長の中貝宗治さんは「女性たちの静かな反乱」と表現する。
男性優位が色濃い地域では、女性は将来への夢や希望を描きにくい。家事や育児、介護の負担が女性に偏ったままではなおさらだ。ただそれは、日本社会全体にも当てはまる。男女間の格差は、加速する少子化の要因である。
一方、「男は稼いで当たり前」「長男が家を継ぐべき」といった価値観に苦しむ男性がいる点も見過ごせない。女性の生きづらさと表裏一体となっている。
灘高で公民を教える片田孫朝日(かただそんあさひ)教諭は、同校の男性教員で初めて育児休業を取った。多様な働き方を伝えたいと、幼い娘を抱いて授業をしたこともある。「私生活を大事にしたい男性は増えているが、生徒たちの父親を含め長時間労働が普通になっている。ジェンダー平等の実現は、男女が健康で自由に生きられる社会の基盤になる」と実感を込める。
いったん立ち止まり、自分の働き方を見つめ直す。日々の生活で大切にしたいことを話題にしてみる。まずは身近なところから一歩を踏み出す日としたい。
岡山県の男女格差 是正して女性の流出防げ(2024年3月8日『山陽新聞』-「社説」)
「国際女性デー」(8日)に合わせ、政治、行政、教育、経済の4分野で男女平等度を分析した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」が公表された。上智大の教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が2022年に始め、3回目になる。
4分野の計30の指標から地域ごとの特色を浮き彫りにし、対策につなげるのが狙いだ。人口移動のデータから岡山県の若い女性の県外流出が進んでいる問題を本欄でも指摘してきた。女性流出の背景について各種の指標から読み解くことが大切だろう。
男女格差が小さい方から並べた都道府県順位で、岡山県は行政7位、教育8位、政治13位、経済29位。4分野の中では経済の低さが目立つ。
経済分野の指標をみると、フルタイムの仕事に従事する割合は32位。女性はパートで働き、「主たる稼ぎ手は男性」という意識が強い地域の一つといえる。ただ、フルタイムの仕事の賃金でも男女格差は大きく29位。賃金は職位や勤続年数を反映するが、なぜ女性は勤続年数が短く、昇格しないのかを考えねばならない。共働き家庭の家事・育児時間の格差も大きく38位。女性は男性の5倍以上も家事・育児をしており、働く女性の負担があまりに大きいことが分かる。
一方、教育分野の格差は小さく、四年制大学の進学率は男性57・5%、女性54・0%と男女でほとんど変わらない。つまり大学を出てから、経済分野の指標が示すような格差に直面することになる。
分析した上智大の三浦まり教授は「大卒女性に見合った職業がなく、企業などの女性管理職も少ない地域では、女性はここではチャンスがないと感じ、県外で就職先を探すことになる」と指摘する。
流出を防ぐ観点から、三浦教授が重視するのが行政の役割だ。首長のリーダーシップで変えることができ、民間への波及効果もある。特に県庁は地方において大卒の採用者数の多い組織の一つだ。
2代にわたって知事が女性登用を進めた鳥取県では、県管理職の女性割合が2割を超えた。岡山県の管理職の女性割合はまだ1割だが、大卒採用数のうち4割超は女性が占めており、先を見据えて女性職員を育成する必要がある。女性が働きがいを感じる職場の姿を示してもらいたい。
政治分野では昨年の統一地方選で女性が躍進した。岡山県の女性県議は12人になり、女性割合は2割超に。都道府県議会では東京、香川に次ぐ3位である。均等にはまだ程遠いものの、地方議会では変化の兆しがある。
人口減少が進む中で、女性に選ばれる地域でなければ持続は難しい。より多くの人が危機感を共有し、格差是正のスピードを上げていきたい。
性差とイノベーション(2024年3月8日『山陽新聞』-「滴一滴」)
春の旅行なのか出張なのか、近ごろ街でコロコロを引く人をよく見掛ける。素材や大きさによってゴロゴロやガラガラとも呼ぶらしいが、要は車輪付きかばんだ
▼単純な仕組みだから昔からあった気がする。ところが発明されたのは1972年。既に人類は月面に降り立つ技術をものにしていたのに、宇宙飛行士が手荷物を楽に運ぶすべはなかった
▼「男なら重くとも自力で持つべし」「女は父や夫を伴わず遠出すべきでない」。そんな固定観念が長く発想を妨げていたという(カトリーン・キラスマルサル著「これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話」)
▼今ある当たり前は誰にとっても当たり前か―。特に男女の性差を踏まえ、疑ってみるところから新たな製品開発を進める動きが国内外で広がっている。無意識のうちに男性が基準となってきた事例が少なくないからだ
▼車の衝突試験では主に成人男性のダミー人形が使われ、実際は体の小さい女性が大けがをする確率が高かった。医薬品の動物実験はオスのマウス、治験は男性被験者が多い影響で女性にはリスクが高い薬もあると分かった
▼見直しの推進力となっているのは研究現場に増えてきた女性たち自身だ。きょうは国際女性デー。荷物を転がして気ままに一人旅をできる現代に、どんな技術革新が起きるか楽しみになる。
広島の男女格差指数 経済40位、危機感共有しよう(2024年3月8日『中国新聞』-「社説」)
男女格差が日本社会に根強く残るとの認識は一定に進んだ。次はどう解消するかを考え、行動する段階にある。
きょうの国際女性デーに合わせて公表された、「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」が手がかりになる。研究者らが政府統計などから4分野の計30指標を選び、男女平等の度合いを算出した。ことし3年目で、各分野の指数の全国順位をみると、広島県は政治が21位、行政22位、教育は学校管理職の女性登用が進んでいるとして1位だった。
深刻なのは、経済分野の40位だ。男性を稼ぎ主とするモデルが色濃く残った姿が浮かぶ。製造業が中心の産業構造や大企業の勤務者が多いといった地域特性が表れた結果でもあろう。だが、経済規模の大きさや人口で全国上位にある県が、時代に遅れた現状のままでいいとは思えない。「仕方がない」と追認せず、危機感を共有すべきだろう。
これ以上、格差を放っておけば、さらなる少子化や人口減少を招く。人手不足が顕在化した中、若い世代の県外流出が加速していく要因に十分なり得よう。とりわけ地方にとって今や経済社会政策のど真ん中のテーマである。企業や行政、そして県民も気付きを得て、選択肢のあるうちに改善策を進めたい。
経済分野でどんな格差があるのか。七つある指標のうち、ことし新たに加えた就業率は男性の68%に対して女性は52%で、格差の度合いは全国30位だった。企業の採用における男女の壁や、根強い性別役割分担の意識を映し出していよう。
管理職の男女比は23位、フルタイムの仕事に従事する男女比は36位だった。ともに初回の2年前より順位が下がっている。共働き家庭の家事・育児時間の男女差もしかりだ。女性に社会的な活躍のチャンスが少なく、家事や育児の役割が偏っている―。これらの格差を縮める動きが全国で進み、相対的に順位が下がった点は見過ごせない。
さらに気がかりは、教育分野との落差である。1位なのは、四年制大学への進学率の男女差が小さく、校長や教頭に女性の比率が高いことを反映した。こうした教育環境で、男女平等を当たり前として学んできた若い世代が、社会に出た途端にギャップや働きづらさを感じる地域でいいのだろうか。
広島県は、人口が流出する「転出超過」が3年連続で全国最多だった。女性の流出が上回ってきたが、昨年は男性が多かった。いずれUターンで帰ってくるはずと、悠長に構えていられる情勢だろうか。近年、中国地方からの流入が減ってきた現実もある。
格差指数から長時間労働や男性が育休を取れない「昭和の働き方」を抜け出せない現状が透けて見える。共働きで家計を安定させ、家事や育児を分担したい若い男性は増えている。選ばれる広島となるために、次世代が働きやすい環境づくりは待ったなしだ。
三淵嘉子さん(2024年3月8日『中国新聞』-「天風録」)
日本帝國男子ニ限ル。司法試験の会場に墨で書いて張り出されていた。時は1938年、当時の司法修習生採用の案内である。2年前に弁護士の門戸は女性に開かれたものの、裁判官と検察官にはなれなかった
▲「(この文言が)頭にこびりついて忘れられなかった」。この年、司法試験に合格して女性初の弁護士となった三淵嘉子(みぶち・よしこ)さんは語っていた。男女差別が色濃かった法曹界に道を切り開く
▲戦後志願し、やはり日本初の女性裁判官になった。家庭裁判所の創設にも携わり、女性や子どもの権利擁護に尽くした。4月に始まるNHK連続テレビ小説「虎に翼」は彼女が主人公のモデル。その人生がどう描かれるのか楽しみだ
▲広島とは意外な縁がある。被爆18年にして世界で初めて米国の原爆投下を国際法違反と断じた原爆裁判判決。それを書いた東京地裁判事の一人だった。自身は戦争で夫と弟を亡くした。戦争と核使用を繰り返してならぬとの思いは人一倍だったはず
▲きょうは国際女性デー。彼女には「女性であるという自覚より人間であるという自覚の下に生きてきた」の言葉もある。私たちにこびりついた、性別にまつわる思い込みに気づく日にしたい。