4月から時間外労働(残業)の上限規制が導入された建設業や物流業が、人手不足が深刻化する「2024年問題」に直面し、高齢者や外国人、女性の受け入れに乗り出している。人手不足が原因の倒産が過去最多を記録する中、多様な人材の確保で対応を急いでいる。(大島宏一郎)
2024年問題 時間外労働(残業)の上限規制が一部業種で2024年4月に導入されたことで、1人当たりの働く時間が減り、深刻な人手不足が生じている問題。上限規制は物流業では年960時間、建設業では特別な事情がある場合でも年720時間まで。労働環境の改善が期待される半面、トラック運転手が荷物を運べなくなったり、建設業の工期が延びたりするなど、生活や経済への悪影響も予測されている。
◆大企業OBの60代男性を採用
「残業が多く、2024年問題への対応を本当にどうにかしないと現場の(勤務)状況は改善できない」。屋内外の配線工事を手がける能田電気工業(東京都荒川区)社長の井上有子さん(56)が現状を説明した。従業員は17人と少ない中、現場監督が事務の仕事を兼業。帰社しても、写真の整理や書類の作成に追われ、夜10時まで働くときもあったという。
2022年から力を入れているのが採用活動だ。求職者の再就職を支える公共職業訓練施設に足を運び、電気工事について学んでいた大企業OBの60代男性に声をかけ、営業職として採用した。子育て中の求職者を支援する「マザーズハローワーク」にも求人を出し、中国人の女性を時短勤務の事務職として採用した。「現場のサポートができる人を探す」ことで、会社の残業時間を削減したいと考える。
◆物流業界が注目する特定技能の追加
厳しい現状は物流業も同じだ。運送会社など約700社が加入する首都圏物流事業協同組合(豊島区)では、通販サイトの普及で数年前から荷物量が増えたことを背景に、組合員の企業から「人手が足りない」との声が寄せられる。理事の宮田靖央(やすひろ)さん(48)は、業界特有の過当競争も人手不足の理由に挙げ「(業界は)仕事が欲しくて運賃を下げてきた。運賃が上がらないとドライバーは仕事を続けられない」と話す。
宮田さんが打開策として注目しているのは、外国人労働者の在留資格「特定技能」に自動車運送業を加える3月の閣議決定だ。ベトナム人運転手の受け入れをサポートし、「人手不足に困っている運送会社との橋渡しをしたい」という。
◆人手不足による倒産が大幅に増加
帝国データバンクによると、離職や求人難などによる人手不足倒産は23年度に313件と、これまで最多だった19年度の199件を大幅に更新。2024年問題の対象業種である建設業と物流業が、4割超を占めた。時間外労働の上限規制により1人当たりの働く時間が短くなるため、より多くの人手が必要になっている。
同社が約1万社から回答を得た昨年11月の調査では、景気回復に必要な政策を「人手不足の解消」と答えた割合が、40.7%(複数回答)と最多だった。同社の旭海太郎(かいたろう)さんは「コロナ禍からの経済活動の回復で、人手不足が(経営上の)最重要課題となっている」と話している。
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◆東京商工会議所も「働き手の多様化」を提言
人手不足を巡っては、中小企業を中心に8万を超える会員でつくる東京商工会議所も昨年12月、「働き手の多様化」の必要性を提言している。仕事と育児を両立しやすくしたり、高齢者の健康に配慮したりする取り組みが必要とした。
日本商工会議所と共同で2988社に尋ねた1月の調査によると、人手が「不足している」と答えた企業の割合は6割超。業種別で見ると建設業(78.9%)や運輸業(77.3%)の割合が高い。特に従業員5人以下の零細企業から東商に相談が多く寄せられている。
2024年問題の関係業界を中心に深刻な状況が続く中、東商の担当者は「人が採れない状況をしっかり受け止める必要がある。出産後の女性やシニア、外国人など、多様な人材が活躍できる環境をつくっていかないといけない」と話す。
佐藤幸太郎・中小企業相談部部長は、業界特有の多重下請け構造下では受注金額が低くなるという現状を念頭に「(発注側から)おりてくる金額では世間の相場に合った賃金で募集をかけられない」と強調。賃上げの余力を確保するために「安値で仕事を引き受けず、価格を上げる交渉をしながら新規の取引先を開拓することが必要だ」と話した。