国にとっては予定された手順なのだろう。だが地元の不安や疑問に応える前に、同意を要請するのでは、手続きを優先した一方的な動きにしか見えず、真摯(しんし)な対応とは言えない。
顕在化した課題の解決策を示し、不安を払拭するために注力しなくてはならない。納得のいく議論がなされなくては、再稼働の是非を判断するのは困難だ。
資源エネルギー庁の村瀬佳史長官が21日、花角英世知事を訪ね、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働について地元同意を要請した。
面会で村瀬氏は「東日本エリアの電力需給は厳しい状況が続いている」として理解を求めた。花角氏は、原発事故時の避難など課題を挙げ「再稼働の議論を深め、その上で県民がどう受け止めるか丁寧に見極めたい」と述べた。
村瀬氏の訪問に先立つ18日には、斎藤健経済産業相が電話で再稼働への地元同意を求めていた。
原発再稼働を推進する立場の岸田文雄首相は「地元の理解を得られるよう、国が前面に立って原子力の必要性や意義を丁寧に説明する」と強調している。斎藤氏や村瀬氏の動きは、再稼働を急ぐ政府の姿勢を表すものだ。
柏崎刈羽原発では、6、7号機が再稼働に必要な原子力規制委員会の審査に合格したが、テロ対策の不備が相次ぎ、規制委が事実上の運転禁止命令を出した。
改善が確認できたとして昨年12月に規制委が命令を解除し、政府は年明け早々に同意を要請しようとしたが、元日の能登半島地震や、東電福島第1原発での汚染水漏れのトラブルで延期していた。
問題なのは、能登半島地震で原発事故時の避難の困難さが露見したにもかかわらず、国側が具体的な解決策を示す前に、地元同意の要請に動いたことだ。
被ばくを避けるために行う屋内退避では、家屋が倒壊し物理的に不可能な場合の対応や、解除時期に具体的な定めがない点などで、実効性が問われている。避難道路の確保についても未解決で、拙速な印象は否めない。
規制委は先月、原発事故時の住民避難をまとめた「原子力災害対策指針」の見直しに着手したが、取りまとめるのは来年3月までとし、まだ先になる。
斎藤氏は19日の会見で「しっかりとした緊急時対応がない中で、再稼働が進むことはない」と述べた。避難の在り方は、再稼働を判断する上で重要な要素になると考える県民は多いはずだ。
再稼働についてはこれまでに、柏崎市議会と刈羽村議会が早期再稼働を求める請願を採択したものの、住民の思いは複雑だ。
県議会には、同意要請は時期尚早だとする声もある。
県民の声を広く聞き取り、議論を深める必要があるだろう。結論ありきで進めてはならない。