政倫審の限界あらわ 真相解明へ証人喚問行え(2024年3月22日『福井新聞』-「論説」)

 衆参両院で4日間行われた政治倫理審査会。安倍派幹部らの弁明と質疑では政治資金収支報告書への不記載などの会計処理への関与を否定するばかりか、違法性の認識もなかったと説明した。これでは真相解明につながらないし、政倫審の限界があらわになった格好だ。自民党内ですら「疑問が残る」との声が上がっており、国民も到底納得しないだろう。

 政倫審の焦点の一つは、2022年8月5日の派閥幹部による協議だ。同年4月に派閥の会長である安倍晋三元首相の意向に沿っていったんは還流とりやめを決めながら、この日の協議で復活させたとされる。出席メンバーの塩谷立西村康稔世耕弘成下村博文各氏は意思決定への関わりを否定。西村氏は「結論は出なかった」と述べたのに対して、塩谷氏は「還付を希望する声が多く、その要望に沿って従来通り還付が継続された」とし食い違いが明らかになった。

 世耕氏は「分からない。誰が決めたのか私自身知りたい」などと当事者意識の欠如は無論のこと、半ば開き直りとも思える答弁に終始した。幹部会協議でノルマ超過分を議員個人のパーティー券購入費に充てる案が出たことは認めたが、誰の提案だったかは「記憶にない」を連発した。

 1月末の記者会見でこの案が話し合われたことを明らかにした下村氏は、その際「合法的に出す案」と述べていた。合法的と言うならばそれまでの会計処理の「違法性」を認識していたと見る方が自然だろう。政倫審では、その案は採用されず提案者も覚えていないと述べるにとどめ、当時は「還流が違法とは認識していなかった」と主張した。

 「知らない」「記憶にない」などとのらりくらりかわす姿勢を許しては、いつまでたっても真相には近づかないし、ろくに調査もしないで、何のために審査を申し出たのかと言いたくもなろう。西田昌司参院議員が政倫審で「派閥の幹部はその時知らなくても報告する義務がある」と批判したのも当然だ。

 野党が要求するように、偽証罪が適用される証人喚問に踏み込む時だろう。個々の発言の食い違いをただすためには一堂に会する方法も検討できないか。幹部協議に同席してきた会計責任者の同派事務局長の証言も求めたい。証人喚問について、自民党総裁である岸田文雄首相は「国会で決めること」と決まり文句を繰り返しているが、17日の党大会で「先頭に立って党改革、政治改革を断行すると改めて約束する」と表明。前日の全国幹事長会議では「命懸けで党再生に努力したい」とも述べた。その第一歩が裏金事件の解明であることは論をまたない。