政倫審と議員処分 裏金事件、幕引きは許されぬ(2024年3月20日『河北新報』-「社説」)

 政府や党の要職にあった幹部は一向に説明責任を果たさず、所属議員の処分に乗り出す執行部にも大臣規範違反や不透明な政治資金の使い方が指摘されている。

 国民が求める実態解明に背を向け、幕引きを急ぐようでは腐敗体質からの脱却は期待できまい。岸田文雄首相は関係者の証人喚問に応じるとともに、真相究明を尽くした上で、関係議員に厳しい処分を下すべきだ。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、安倍派の会長代理を務めた下村博文文部科学相が18日、衆院政治倫理審査会(政倫審)に出席した。

 参院と合わせ計4回目の審査会となったが、これまでに出席した安倍派幹部と同様に派閥の資金管理も自身の事務所の会計も「知らない」「関与していない」との釈明に終始した。

 焦点の一つとなったのは、安倍晋三元首相の指示で中止することになった議員側への資金還流が安倍氏死去後、2022年8月の幹部協議を経て復活した経緯だ。

 協議に加わったのは下村氏と塩谷立文科相西村康稔経済産業相世耕弘成参院幹事長、立件された派閥事務局長の5人。

 この場で還流継続が決まったかどうか、下村氏は「結論は出なかった」と述べ、「話し合いで継続になった」とした塩谷氏の証言とは食い違いが残ったままだ。

 この協議では、さらに還流に代わって議員個人のパーティー券を派閥が買い取る案が出たことも分かっているが、下村氏は「誰が最初に言ったのか覚えていない」と主張。他にも問題の核心に触れるような質問には、一様に「知らぬ存ぜぬ」を繰り返した。

 組織ぐるみの裏金づくりはいつ、どのように始まり、派閥と議員の双方に違法性の認識はなかったのか。国民の疑問は何一つ解消していない。

 事実と異なる発言をしても罪に問われない政倫審の限界があらわになる中、首相は18日の参院予算委員会で裏金に関与した議員の処分について「できるだけ早期に判断したい」と述べ、通常国会中に実施する考えを示した。

 しかし、最も重い「除名」とそれに次ぐ「離党勧告」は見送る方針で、国民の理解が得られるかは定かでない。

 そもそも処分の実務を担う茂木敏充幹事長には自身の後援会組織に使途の詳細が不明な億単位の支出があり、首相自身もこれまで大臣規範に反する大規模パーティーを重ねてきた。処分する側の正統性さえ疑われている状況だ。

 裏金づくりの始期を知る可能性がある森喜朗元首相の証人喚問を実現させ、事件に真摯(しんし)に向き合う姿勢を示さなければ、自民が信頼回復に向けたスタートラインにさえ立てないのは明らかだ。形式的な処分で幕引きを図るなど、決して許されようはずはない。