FRBは物価の強さを綿密に見極めよ(2024年3月22日『日本経済新聞』-「社説」)

 
FRBは利下げをにらみ、強い経済・雇用とインフレ減速が両立するかを突き詰めて検討する必要がある(20日、ワシントンで記者会見するパウエル議長)=AP
 

 米連邦準備理事会(FRB)は20日まで開いた米連邦公開市場委員会FOMC)で政策金利を据え置く一方、2024年内に3回としていた利下げの想定を維持した。インフレの根強さを示す指標が続くなかでも金融引き締めからの転換を探る意向を示した。

 市場参加者は緩和への方向性を堅持したとみて日米の株価が大きく上げた。だが、景気と物価の軟着陸は簡単ではない。利下げが早すぎると物価高が再燃し、遅すぎても景気が急失速しかねない。FRBは予断を持たずに情勢分析と市場との対話に努めてほしい。

 米インフレ率は昨年末にかけて大きく減速したあと足元では下げ止まる傾向がみえていた。市場は利下げ方針の後退を懸念したが、パウエル議長は記者会見で「インフレ率が2%に向かって徐々に低下していく全体的なストーリーは変わっていない」と表明した。

 今回まとめた新たなシナリオでは、昨年12月の前回予想に比べて成長率や失業率を総じて改善方向に見直した半面、目標とするインフレ率の見通しを大きくは変更しなかった。FRBは堅調な経済・雇用とインフレ減速は両立するとみるが、物価に上振れ圧力がかかる可能性は無視できない。

 実際、政策金利の見通しでは24年の利下げ回数を変えなかった一方で、25年は従来の4回から3回に減らした。米経済の実力に見合う「中立金利」に近い長期の金利想定は、従来の2.5%から2.6%へとわずかに高めた。

 一方、5%超の高い政策金利がなお続くことを踏まえると、堅調な景気・雇用がどこかで急失速するリスクにも目配りは欠かせない。オフィスビルなどの商業用不動産は軟調な相場が続き、調整圧力の強まりが懸念されている。

 FRB保有国債などの残高を削減する「量的引き締め(QT)」を巡り、今回の会合で現行の資産圧縮ペースの減速を議論し、早ければ5月初めにかけて開く次回会合で決定する考えを示した。

 QTが進むと市場の余剰資金が細る。商業用不動産問題を含め金融業界の一部に不安もくすぶるなか、市場での無用の混乱を避けようとする工夫は妥当だろう。

 米金融政策の成否は「異次元緩和」の解除を決めたばかりの日銀の金融政策にも影響する。FRBは物価の強さを綿密に見極め、経済・雇用情勢を踏まえて時機を過たずに政策を判断してほしい。