ヤングケアラー「知らない」45% 社会全体の意識高めるとき(2024年3月21日『佐賀新聞』-「論説」)

 鳥栖市NPO法人が市内の小中学校や保育園を対象に行ったヤングケアラーに関する意識調査で、ヤングケアラーを「知らない」とする回答が45%に上った。ヤングケアラーとは、本来大人が担うべき家事や家族の世話を日常的に担っている子どものことで、子どもが学び、育つ権利を奪ってしまう。認知度はまだ低く、社会全体が問題に目を向け、意識や理解を深めていくことが求められる。

 調査はNPO法人「しょうがい生活支援の会すみか」(芹田洋志代表)が昨年、市内の小中学校の教職員と保育所・幼稚園の職員らを対象に行い、913人が回答。九州龍谷短大鳥栖市)の鬼塚良太郎教授が集計と分析結果を報告した。

 ヤングケラーについて、「言葉を知らない」は全体の10%、「聞いたことがあるが、具体的には知らない」は35%。「言葉を知っており、具体的に内容も把握している」は55%だった。

 「言葉を知らない」は小学校に比べ、保育所等で17%と高かった。鬼塚教授は報告の中で、ヤングケアラーの状態は5人に1人が「未就学時に始まった」と回答したデータを紹介。保育所職員の多くは「こんな幼い子の中にはいない」と考える人が多数だろうが、鬼塚教授は「未就学児の中にいてもおかしくないし、おそらくいる」と注意を促し、保育所などでもヤングケアラーに関する研修を充実させる必要性を強調した。

 「ヤングケアラーと思われる子どもの有無」については「いる」が7%だった。武雄市が昨年、小中学校の教職員を対象に行った調査では「いる」が21%、日本総研が2022年、小学校に行った全国調査では「いる」が約34%だった。鳥栖市は数値的には低いが、「分からない」が3分の2(62%)を占めており、理解度が上がれば割合が変わると考えられる。今後、適切な対応を図っていくうえでも学校や保育の現場では、子どもたちの状況を正しく見極め、把握する力が求められる。

 ヤングケアラーが発生する原因は、貧困を背景に、働く親の代わりに祖父母の介護、幼いきょうだいの世話、障害があるきょうだいの世話などを担うケースがある。親に病気や障害、アルコール依存症などがあり、親やきょうだいの世話をするケースもある。

 原因が病気か、障害か、高齢者介護かで現在の行政の枠組みでは窓口が変わるため、相談してもたらい回しに遭う可能性がある。さまざまなアンケート結果からヤングケアラーは周囲にあまり相談しておらず、教職員も外部の支援先と情報共有をしていない、もしくはできない状況がうかがわれ、対応窓口の設置が急務だ。

 武雄市は本年度、ヤングケアラーに関する庁内横断型の対策チームをつくって対応マニュアルや外部機関を交えたチームづくりに取り組んだ。佐賀市は新年度からヤングケアラーの「家事代行」費用の一部を補助する予算を市議会に提案している。対象となる可能性がある世帯を行政や地域、事業所が市の担当課につなぎ、支援世帯となるかを判断する計画で、有効な支援策として期待される。

 認知度の低さから、現状ではヤングケアラーであることに本人が気付かないこともあるだろう。お手伝いの範囲かどうかを判別する知識を子どもも大人も持つことが必要だ。ヤングケアラーという言葉を一人一人が知り、意識的に向き合うことから始めなければならない。(樋渡光憲)