教育現場で保護者対応に悩む教職員は少なくない。保護者から寄せられる相談や要望はまっとうなものも多いが、時には理不尽な要求で業務に支障を来したり、教職員が休職や退職に追い込まれたりするケースもある。
奈良県天理市はこうした状況を改善しようと、4月から全国的にも珍しい保護者対応専門の部署を設置する。「教職員に心のゆとりを持って子供たちに向き合ってほしい」としている。
【一覧】夜間の家庭訪問、病院代の立て替え…教職員らが保護者対応で受けた理不尽なクレーム
■約8割が「負担に感じる」
《こちらに非がないことに対して謝罪を要求され、人権を無視した罵詈(ばり)雑言が浴びせられた》《いつまでも覚えているとしんどくなるので、記憶も薄れています。書きたくありません》 天理市が昨秋教職員や保育士ら約380人(回答265人)に行った保護者対応に関するアンケートには、切実な思いがつづられていた。
アンケートは、5項目の設問と自由記述で構成。「保護者対応で授業に支障が出たことがあるか」との設問には63・3%が「ある」、「日常業務で保護者対応を負担に感じているか」との設問には77・5%が「感じている」と回答した。 自由記述では、教職員らがこれまでにあったトラブルを列挙。「学校行事に関わる子供の病院代を保護者が払わず、立て替えを要求された」「子供が家で壁を蹴って穴をあけたことが学校によるストレスであると家に呼び出された」など、あくまで教職員側の言い分であることを念頭に置いても、理不尽なものが散見された。
■深夜に及ぶ話し合い
なぜ、業務に支障が出るほどのトラブルに発展してしまうのか。
天理市立小学校で校長を務める男性は、「教職員は最初に問題が生じると小さくまとめてしまおうと思うところが大きく、後に問題がこじれ、話し合いに時間を割く原因にもなっている」と打ち明ける。 話し合いは、児童が下校した夕方から始まり深夜にまで及ぶことが多く、解決まで数週間かかることもある。保護者が感情的になるあまり、「前の担任はこうだったから同じように対応しろ」「教師をやめろ」など理不尽な言い方をすることもあり、「精神面でも傷つくことが多い」という。 奈良県教委が令和2年にインターネット上で行った「奈良県の先生の働き方調査」(3845人が回答)によると、教職員が学校に滞在する1日当たりの平均時間は11時間22分に上る。教職員らが減らしたい業務には、「事務・報告書の作成」「会議・打ち合わせ」に次いで、「保護者対応」が挙がった。
天理市によると、保護者対応が直接・間接的な原因で休職・退職した公立小中学校教職員は、昨年4~12月だけで14人いたという
■課題解決への一石に
天理市はこうした状況を踏まえ、今年4月に保護者対応専門部署「子育て応援・相談センター~ほっとステーション~」を設置。臨床心理士のほか、学校現場に詳しい元校長経験者5人を含む十数人が所属し、電話や窓口などで対応に当たる。子供同士のトラブルや意見などは、学校へフィードバックして問題解決の糸口を探るほか、保護者自身のケアが必要な場合は行政の支援にもつなげる。