ロッシェル・カップさん「市民が反対しても無視する」 神宮外苑問題が再開発に怒る各地の人々をつなげた(2024年3月21日)

 
 東京・明治神宮外苑地区の再開発の見直し運動がきっかけになり、各地で公園など公共空間の再開発に反対している住民団体の連絡組織「コモンズの緑を守る全国ネット」(コモンズネット)ができた。共同代表の一人で、米国人の経営コンサルタントのロッシェル・カップさんは「公共空間を舞台にした再開発は全国で進み、多くの樹木が脅かされている。それぞれのグループが協力し合い、活動を広げていきたい」と話している。 (森本智之)

自治体が公共空間を商業的に活用する動き

「コモンズネット」共同代表のロッシェル・カップさん(左)と原和加子さん(森本智之撮影)

「コモンズネット」共同代表のロッシェル・カップさん(左)と原和加子さん(森本智之撮影)

 外苑の再開発で多数の樹木が伐採されることが明らかになった2022年2月以降、カップさんは再開発の見直しを求めるウェブ署名を始めた。交流サイト(SNS)で情報発信するうち、全国で開発に直面している住民から連絡をもらい、交流するようになった。
 カップさんは「自治体自らが公共空間を商業的なスペースに変えようとし、市民が反対しても無視する。それが典型的なケースの一つ」という。公園整備の予算不足が全国の自治体の課題となっており、民間委託は各地で進んでいる。民間の力を生かして行政コストを減らす「官から民へ」の一環で、過剰開発の背景にはこうした動きなどがあるとみている。ただ住民運動の多くは手弁当で人材や資金にも限りがある。共に外苑の反対運動に加わっていた原和加子さんが「つながれば、少しでも声が大きくなるんじゃないか」と連絡組織を提案した。

◆神戸では反対の声が市に聞き入れられず

 昨年12月に発足し、東京都千代田区の神田警察通りのイチョウ並木の伐採や、街路樹や公園樹1万9000本を切る大阪市の事業に反対する団体など関東、関西の約20団体が参加した。
 パンダが有名な動物園のある、神戸市の王子公園では「都市ブランドの向上」などを目的に、市が公園全体の約2割、3.5ヘクタールを削除し、大学を誘致。その過程で樹木が伐採される。「王子公園・市民ミーティング」の小林るみ子代表は「何度も神戸市に申し入れ、署名も議会の請願も行ったが対応は変わらない。連絡組織は、大きな存在。力を借りたい」と話す。

◆京都では計画見直しにつながったケースも

「コモンズネット」の第2回会合ではオンラインで全国と結び、参加団体が活動状況を報告し合った=東京都中央区で

「コモンズネット」の第2回会合ではオンラインで全国と結び、参加団体が活動状況を報告し合った=東京都中央区

 今年で創立100年となる京都府立植物園京都市)でも「躍動する祝祭空間」を目指し、商業施設を建設したり、隣接地に1万人規模の巨大アリーナを建設する計画が20年に浮上した。ただ反対運動により府は計画の内容を見直し、アリーナも今月に入って別の場所に建設することで決着した。「京都府立植物園整備計画の見直しを求める会」の鰺坂学共同代表は「活動を横に広げる意味はすごく大きい。私たちが集めた16万筆以上の署名のうち、3分の1は関東をはじめ全国から集まった」と強調。「活動を始めたころは計画を変えるのは難しいと思っていた。全国でコモン(共有財)を守る運動の一助になりたい」と話す。

 明治神宮外苑地区の再開発 神宮球場秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えて建て替え、商業施設やオフィスが入る高層ビルも建設する。外苑は美観を保つため開発が制限されてきたが、規制緩和した。事業は三井不動産明治神宮などが手掛け、2036年に完了予定。樹木伐採や景観の悪化に反対の声が上がっている。国際記念物遺跡会議は昨年9月、計画の見直しを要請。直後に小池百合子都知事は事業者に樹木の保全策を提出するよう求めた。9月以降に始まる見通しだった伐採はストップしている。