東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から13年に合わせ、河北新報は宮城県内の有権者を対象に、インターネットで原発に関する意識調査を実施した。東北電力が9月ごろを予定する女川(おながわ)原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働に関し、反対は43・9%で賛成の41・4%をわずかに上回った。
[調査の方法]社会調査研究センターが、NTTドコモの協力を得て開発した新たなインターネット調査方式「dサーベイ」で実施した。NTTドコモのdポイントクラブ会員を対象としたアンケートサービスを使用し、全国約6500万人の登録者(18歳以上)のうち、宮城県在住者から調査対象者を無作為に抽出。調査への協力を依頼するメールを10日午前9時から配信し、2060人から有効回答を得た。一般の世論調査とは異なる。
昨年2月に本紙が実施した原発に関する電話世論調査では、賛成が53・2%で反対の46・7%を上回り、比較可能な2017年以降で初めて賛否が逆転した。今回は調査方式が異なり単純比較はできないが、再び反対が上回る形となった。
回答の内訳は「反対」17・4%、「どちらかといえば反対」26・5%、「賛成」13・8%、「どちらかといえば賛成」27・6%、「分からない」13・1%、無回答が1・7%だった。
反対の理由は「安全性に疑問がある」が47・2%で最多。「早く再生可能エネルギーに移行すべきだ」が19・1%、「使用済み核燃料の最終処分場が決まっていない」が14・9%で続いた。
賛成の理由は「再生可能エネルギーへの移行まで当面必要」が44・1%で最も多く、「電気料金を安くできる」が24・5%、「安全対策が十分にとられている」が12・5%を占めた。
地域別に見ると、原発が立地する女川町と石巻市では、反対が44・2%で賛成の40・7%を上回った。原発から30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に入る登米、東松島、涌谷、美里、南三陸の5市町でも反対が45・1%、賛成は44・1%となった。
年代別で反対が最も多かったのは70歳以上の61・2%。年代が下がるにつれて反対の割合が低下する傾向がみられた。逆に賛成が最も多かったのは18~29歳で54・7%だった。
国内の原発の安全性について認識を尋ねたところ、「不安」「どちらかといえば不安」が計58・1%を占め、「安全」「どちらかといえば安全」の計35・3%を大きく上回った。
東北電は2月、女川2号機の安全対策工事を6月に完了させ、9月ごろに再稼働させる方針を示した。
事故時の避難計画 能登地震で不安拡大30%
河北新報が宮城県内の有権者を対象に実施した原発に関する意識調査は、東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)の重大事故時の避難計画への認識も尋ねた。今年1月の能登半島地震発生で「不安感が大きくなった」が30・9%を占めた。「不安感の程度は変わらない」の33・9%も合わせると、避難計画への不安感は64・8%に上った。
能登半島地震では、被災地の石川県志賀町に立地する北陸電力志賀原発に重大な被害はなかったものの、原発周辺で避難道路の寸断や家屋の倒壊が相次ぎ、避難計画の実効性が改めて問われた。
能登半島地震後も「信頼感の程度は変わらない」は17・9%。「信頼感が大きくなった」は1・0%だった。「分からない」が15・7%に及んだ。
女川原発では、外部に放射性物質が漏れるような重大事故が起きた場合、原発から5キロ圏の住民は車やバスで避難し、5~30キロ圏の住民は屋内退避を基本としながら、放射線量の測定結果に応じて避難する計画を各自治体が策定している。
これらの避難計画の認知度を尋ねると「あまり知らない」「全く知らない」が計54・3%で過半数に達した。「よく知っている」「ある程度知っている」は計43・5%で、県民への周知が課題とみられる。
避難計画の内容に関しても「不十分」「どちらかといえば不十分」が計52・7%に上った。「十分」「どちらかといえば十分」は計20・7%。「分からない」が26・2%を占めた。
不十分な理由は「渋滞発生など混乱が予想される」が28・9%、「放射性物質汚染の広がり方の想定が不十分」が28・0%だった。避難計画が「不十分」と回答した人の64・1%は、能登半島地震後の避難計画への認識について「不安感が大きくなった」と答えた。
今後の原発政策に関しては「段階的に減らして将来的にゼロ」が最多で48・4%を占めた。「段階的に減らすが新しい原発をつくり一定数維持」も27・2%あった。
政府が原発の「原則40年、最長60年」という運転期間を見直し、60年超の運転を可能したことには「評価しない」「どちらかといえば評価しない」が計59・2%に上った。政府が原発の開発・建設推進を掲げたことにも「反対」「どちらかといえば反対」が計51・7%で過半数に達した。
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出で、水産物の安全性に懸念があるかどうかを尋ねると「とても懸念」「ある程度は懸念」が計46・2%、「全く懸念していない」「あまり懸念していない」が計47・2%で拮抗(きっこう)する結果となった。
10~30代は再稼働賛成が過半数超える
女川原発2号機の再稼働は若い世代ほど賛成し、年代が上がるにつれ、反対が増える傾向が調査で浮かび上がった。気候変動にさらされる中、化石燃料から転換を図るための負担を若い世代が押しつけられる「世代間不公正」を感じ、再稼働に前向きな認識を持っている可能性もある。
再稼働に賛成と答えた割合を年代別に見ると、18~29歳が54・7%、30代が51・0%で過半数を占めた。40代は46・7%、50代は43・1%、60代は37・2%で徐々に低下し、70歳以上は27・3%にとどまった。
賛成理由の最多は18~29歳が唯一、「電気料金を安くできる」(34・8%)だった。30代以降はいずれの年代も「再生可能エネルギーへの移行まで当面必要」が最も多かった。
一方、反対の割合を年代別に見ると、70歳以上は61・2%に達した。60代が51・4%、50代が42・8%、40代が36・7%と年代が下がると少なくなり、30代は32・1%、18~29歳は24・3%となった。反対理由は全年代とも「安全性に疑問がある」がトップだった。
昨夏は国内の平均気温が平年を1・76度上回り、1898年以降で最も暑かった。冷房が欠かせない中、資源高で電気代が引き上げられ、経済基盤の弱い若者世代が苦しんだ。化石燃料由来の電気を使い、経済成長の恩恵を受けてきた世代とは、原発に対する見方が異なるようにも見える。
ただ、再稼働が電気料金を安くするかどうかは「核のごみ」の処分費用まで考えると議論の余地がある。
再稼働に反対と答えた70歳以上の16・6%が理由に「使用済み核燃料の最終処分場が決まっていない」を挙げたのは、将来世代に負担を押しつけたくないという意識の表れとみられる。
(報道部・菊間深哉)