カウンターの受付担当者が笑顔で「お待ちしておりました」―。そんな昔ながらの企業の受付風景が変わりつつある。近年広がるのは、タブレット端末で客自らが来訪を知らせる無人受付システム。あみ出した「RECEPTIONIST(レセプショニスト)」(目黒区)最高経営責任者(CEO)の橋本真里子さん(42)に、開発への思いを聞いた。(嶋村光希子)
無人受付システムの開発について話す橋本CEO
◆アナログ課題を解決
「企業の顔として10年以上受付の仕事をした私だからできることがあるはずだと思った」と橋本さん。
大学卒業後、派遣社員を中心に大手IT企業など7社で受付を担当した。大好きな仕事で誇りをもって働いていたが、30代を迎えて今後のキャリアを考え始める。「受付は派遣社員が多く不安定。年齢や性別に制限があり、ずっと続けられる仕事ではないのかな…」。漠然とした不安に加え、業務の課題が頭をもたげた。
そもそも世の中はデジタル化が急速に進むが、受付周りはアナログのまま。手書きで受付票を記入してもらい、担当者を内線電話で呼び出して取り次ぐ。部屋に通してお茶を出す。一連の作業をさばくのに、混雑する時間帯は客の行列ができることもある。「解決するサービスを作りたい。できるのは現場を熟知する私しかいない」
起業を決めたものの、経営やデジタルの知識はほぼなかった。持ち前の行動力でいろいろな知人を頼って質問を重ね、資金調達や仲間集めに奔走。2016年に創業した。
受付の業務を無人化するシステムを紹介する「レセプショニスト」の橋本真里子CEO=目黒区で
◆「受付は情報の宝庫」
最近は人件費の節減や来客対応の効率化で無人にする企業は多い。さらに非接触が求められたコロナ禍も導入企業の増加を後押しした。試験導入する野村不動産の担当者は「受付時間を短縮できた。効率的に来客を迎えられる」と語る。
業務は「受付嬢」との言葉にもあるように「女性の仕事」といったジェンダーバイアス(性別に基づく偏見)も根強いが、橋本さんは「性別や年齢を限定する必要はない」と強調する。
どんな企業がどんな頻度で来訪しているかといったデータは経営への活用も可能。「受付は情報の宝庫」とも。「無駄をなくした時間で、人にしかできない仕事にも注力できる」と力を込めた。