男性の育休目標 実効性が高まる制度に(2024年3月5日『中国新聞』-「社説」)

 男性の育児休業取得率の目標を作って公表するよう、厚生労働省は従業員100人超の企業に義務付ける関連法案を今国会に提出する方針を固めた。

 男性が育児により関わって女性の負担を減らし、危機的な状況になっている少子化に歯止めをかけたい考えだ。男性が取得しやすくなるよう法律で促す方向は評価できる。問われるのは実効性だ。

 2022年度の調査で、男性の育休取得率は17・13%にとどまった。女性の80・2%と大きな開きがある。政府は「25年までに50%」と男性の目標を掲げている。

 今国会に提出する方針の次世代育成支援対策推進法の改正案は、従業員100人超の企業に、男性の育休取得率やフルタイム労働者1人当たりの時間外・休日労働時間などの目標を行動計画に明記させる。対応しなければ厚労省が勧告できる。

 併せて育児・介護休業法も改正し、男性の育休取得率の実績の公表を課す企業規模を「千人超」から「300人超」に広げたい考えだ。虚偽の取得率を公表するなど悪質な場合の罰則も設ける。

 厚労省のアンケートで、男性が育休を利用しなかった理由は「収入を減らしたくない」が最も多く、次いで「職場が取得しづらい雰囲気」だった。こうした課題をクリアしていこうとする動きを、育休取得率の公表がどこまで後押しできるかは不透明だ。

 例えば男性の育休は期間も女性より短い傾向があり、延ばしていくことが求められている。取得率を上げようとして、短い休みを取得する男性が相次げば、女性の負担は減りにくいだろう。企業が男性の育児参加に前向きになれるように、男性が育休を取得した期間に応じて税優遇を手厚くするなど、さらに踏み込んだ施策を検討するべきではないか。

 23年に生まれた赤ちゃんの数は戦後最少の75万人にとどまった。婚姻数も90年ぶりに50万組を割った。少子化のペースは政府の想定より12年早い。既に地域では人手不足があらゆる分野に広がっており、一刻の猶予もならない。

 政府が企業に本気で取り組むよう促すとともに、当事者となる民間側にも、男性が育児をする機運を高める努力が要る。社員が一時的に抜けることで人繰りが難しくなる面があり、特に中小企業は対応しにくいだろう。ただ、男性の育休を増やした企業の中には業務の効率が改善するなどの成果も報告されている。人材確保の点でプラスの効果も期待できよう。

 広島銀行は男性の育休100%取得を目標とし、出産前から計画を作るようにしたところ、21年度に十数件だった取得数が22年度は110件に急増した。

 少子化は、国の経済・社会システムを維持することが難しい段階に入った。子育てに理解のある職場が高く評価されるべきであり、国民にも意識の変革が求められている。男性の育児が当たり前になるよう、社会が一丸となって取り組む必要がある。