物流運転手の待遇改善 不合理な商慣行見直しを(2024年2月29日『毎日新聞』-「社説」)

「経済の血液」とも呼ばれる物流の持続性が問われている=東京都内で2024年2月、山本明彦撮影


 物流は経済の血液に例えられるインフラだ。長時間労働を強いる不合理な商慣行や産業構造を見直さなければ立ちゆかなくなる。

 トラック運転手の労働環境の改善に向け、商品の配送を依頼する荷主や運送会社を対象にした規制が設けられる。残業が制限されて荷物を運びきれなくなる「2024年問題」に対応するため、政府が関連法を改正する。

 配送先に着いたトラックが荷降ろしまで長時間待たされる「荷待ち」を減らすなど、労働時間短縮の取り組みを促す。対策が不十分な荷主や運送会社には社名公表や罰金などのペナルティーを科す。

 ただ、残業の削減を理由に賃金がカットされては元も子もない。運転手の待遇改善が急務だ。

 運送会社の99%は中小で、下請けや孫請けへの再委託が常態化している。大手から受注を奪い合う現状のままでは、収益力の改善に限界がある。取引の適正化を進め、非効率な産業構造を改めることが必要だ。


 政府は元請けとなる運送大手に対し、実際に配送する事業者のリストを作成させ、取引の透明性を高める。運転手が荷物の積み下ろしなど業務外の作業を無償で引き受けることもあるため、業務やコストの内訳を書面で明示させる。

 課題は実効性だ。国土交通省は監督を担う「トラックGメン」を約160人の体制で発足させた。ただ、全国で6万近くある運送会社の取引実態や待遇を監視するには不十分ではないか。労働当局などと連携し、チェック機能を高めてもらいたい。


 輸送効率の向上も不可欠だ。往路は満載でも、復路はカラのこともある。企業や業種の垣根を越えた共同輸送など、産業界全体での取り組みが求められる。

 ネット通販の拡大に伴い、配送を受託する個人事業主の事故も増えている。政府は運転手に安全講習の受講などを義務付けるが、1人当たりの配送量が過大になりがちな実態にも切り込むべきだ。


 「送料無料」や翌日配送を当然視してきた消費者の意識改革も欠かせない。宅配ボックスを使い、ゆとりのある配送日程を選べば、運転手の負担は軽減される。商品を届ける仕事の価値が、正当に評価される仕組みを作りたい。