岸田首相が「9月までに」と前のめりな改憲論議、「異常かつ異例だ」という裏金事件の影響は(2024年5月3日『東京新聞』)

 
 昨年の憲法記念日からの1年間で、与党や一部の野党は改憲への意欲を一層強めている。自民党総裁岸田文雄首相は、総裁任期の9月までの改憲実現を目標に据えた。公明と日本維新の会、国民民主の3党も大規模災害時などの緊急事態に国会議員の任期を延長する改憲で一致。条文案作成を加速化させる動きを見せるが、立憲民主党が慎重姿勢を示すなど、議論の先行きは見通せない。
第91回自民党大会で演説する岸田首相=3月17日、東京都内のホテルで

第91回自民党大会で演説する岸田首相=3月17日、東京都内のホテルで

 首相は3月の党大会で「今年は条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速する」と強調した。自民は9条への自衛隊明記など4項目の改憲を掲げるが、緊急事態条項など他党派と合意可能な項目での改憲を狙う。
 憲法では国会議員の任期を衆院は4年、参院は6年と定める。自民は、戦争や大規模災害で選挙の実施が困難になった場合には任期延長が必要だと主張。ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化に加え、1月に発生した能登半島地震といった災害の備えとして、改憲の必要性を訴える。
 維新や国民、衆院会派「有志の会」も同調。昨年3月と6月に共同して条文案をまとめ、「武力攻撃」「内乱・テロ」「自然災害」「感染症のまん延」「その他の匹敵する事態」の5つを緊急事態条項の発動要件とした。
 衆院憲法審査会では、自民の中谷元・与党筆頭幹事が「いつでも条文の起草作業に入っていけるところまで議論は進んでいる」と指摘し、公明も基本的な考えはほぼ一致している。
4月25日に開かれた衆院本会議(資料写真)

4月25日に開かれた衆院本会議(資料写真)

 一方、立民の逢坂誠二・野党筆頭幹事は「もっと慎重に多角的に議論すべきだ」と任期延長が立憲主義に反するとの懸念を示した。災害に強い選挙方法の検討が不足しているとして、「とにかく何でもいいから憲法を変えればよいとの議論に思われて仕方がない」と批判する。
 首相が改憲に前のめりな姿勢を見せるのとは裏腹に、自民派閥の政治資金パーティー裏金事件は憲法論議にも影響を及ぼしている。衆参両院の憲法審では、事件で党の処分を受けた委員が交代。参院憲法審では、自民の佐藤正久・与党筆頭幹事が「異常かつ異例だ」と記者団に言及する場面もあった。(三輪喜人)