戦闘機輸出の自公合意に関する社説・コラム(2024年3月16日)

日英伊の3カ国で共同開発する次期戦闘機のイメージ図=防衛省提供
日英伊の3カ国で共同開発する次期戦闘機のイメージ図=防衛省提供

次期戦闘機の第三国輸出を巡る岸田文雄首相の5日の国会答弁
次期戦闘機の第三国輸出を巡る岸田文雄首相の5日の国会答弁(毎日新聞

 

次期戦闘機輸出 「厳格なプロセス」信じ難い(2024年3月16日『河北新報』-「社説」) 


 国民的議論がないまま、安全保障政策の大転換が繰り返されてきた。「厳格なプロセスを経る」と強調されても、うのみにはできない。

 歯止めは本当に利くのか、政治判断でなし崩し的に対象が拡大するのではないかという疑念は募る。

 自民、公明両党の政調会長がきのう、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出を認めることに合意した。「歯止め策」を求めてきた公明が容認した格好だ。

 岸田文雄首相は13日の参院予算委で、輸出を可能にするため、防衛装備移転三原則の運用指針改定を閣議決定する考えを示した。さらに与党協議を経て個別案件ごとに閣議決定するという。これが厳格なプロセスを指すようだ。

 与党の事前協議は非公開で、参加者は十数人に過ぎない。国の根幹に関わる安保政策が国会審議を経ることなく、形作られることにそもそも違和感がある。

 平和国家としてのありようが変容したと受け止められた安全保障3文書改定も、国民的議論と国会論議が事実上ないまま閣議決定されている。閣議決定の重さは認識するが、厳格なプロセスと言い切れるのかは疑問だ。

 岸田首相は「武力紛争の一環として現に戦闘が行われている国に対しては移転は行わない」と強調。木原稔防衛相は防衛装備品・技術移転協定は現時点で15カ国と締結し、事前同意なしの第三国移転を禁じていると補足した。

 移転先で紛争への使用など適正に管理されない場合には「相手国への是正要求や部品移転の差し止めを含め、厳正に対処する」(木原防衛相)とのことだが、輸出先の国の対応を監視・確認する手段はあるのか。それができなければ、憲法が禁じる他国の武力行使との一体化となる恐れは消えない。

 防衛装備品の輸出ルール見直しは両党の実務者が議論を重ねてきた。その中で次期戦闘機計画は大きな議題だった。公明は昨年7月の論点整理で容認したが、11月以降に慎重論に転じるという経過をたどった。

 背景には、殺傷兵器そのものである戦闘機の輸出はかえって紛争を助長するのではないかという支持母体・創価学会の懸念があろう。自民の言い分にあっさり折れれば、支持層からの反発を招きかねないとの判断も働いたはずだ。

 共同通信社の最新世論調査では次期戦闘機の第三国輸出に関し、「一切認めるべきではない」との回答は、自民党支持層33・8%に対し、公明支持層は63・1%に上った。公明は「平和の党」としての存在感を足元から問われていると捉えるべきだろう。

 5年間で総額43兆円の防衛費を確保したことで、防衛装備品を生産する企業は活気づき、成長戦略を描く。岸田首相は「国益」と唱えるが、額面通りには受け取れない。

 

次期戦闘機の輸出 なし崩しの拡大危惧する(2024年3月16日『茨城新聞』-「論説」)

 

 自民、公明両党は英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機に関し、日本から第三国への輸出を認めることで合意した。

 政府、自民党は共同開発する武器の第三国への輸出を全面解禁するよう主張していたが、公明党が反対。今回は次期戦闘機に限定し、輸出先は「防衛装備品・技術移転協定」を結んでいる国に限った上で、輸出先ごとに与党協議を経て閣議決定する手続きを踏むことで折り合った。紛争当事国は対象から除外する。

 岸田文雄首相は国会で「手続きの厳格化で、平和国家としての理念を堅持することを明確な形で示す」と強調した。だが、この手続きは与党内だけで完結し、国会の関与は担保されていない。

 武器輸出の大幅な拡大に慎重姿勢を示した公明党に配慮した形だが、ありの一穴となって輸出対象がなし崩しに拡大していくのではないか。危惧せざるを得ない。

 岸田首相は戦闘機開発に関して「島国である日本の平和と安定を確保するために不可欠だ」と強調。調達価格を下げるために英伊両国が第三国輸出を重視し、「日本も同様の仕組みを持つことが国益になる」と述べて、理解を求めた。

 しかし、最新鋭の戦闘機の輸出は、憲法が掲げる「平和主義」の下で、かつては武器輸出を全面禁止していた安保政策の重大な転換となる。経済的なコスト削減を理由に踏み切っていいのか。

 政府は昨年末に防衛装備品の輸出ルールを定めた移転三原則とその運用指針を改定し、外国企業のライセンス(許可)に基づいて生産した完成品について、ライセンス元への輸出を認めるなど規制を緩和した。武器輸出国への変質だ。そこには国内の防衛産業を維持する目的もあろう。

 だが、国際秩序が不安定さを増す中で、日本は平和国家としてどういう外交・安保政策をとるのか。国会で真正面からしっかりと議論すべきだ。

 次期戦闘機を含む国際共同開発の武器輸出に関しては、昨年7月に自公の実務者がまとめた論点整理では「移転できるようにすべきだとの意見が大宗(大勢)を占めた」と容認する方向だった。ただ、その後、公明党が「歯止めが必要だ」と主張したため昨年末の改定では先送りされた。

 公明党が指摘したのは、2022年に次期戦闘機の共同開発を決めた際には第三国輸出が想定されていなかった点だ。岸田首相は「決定後に協議を進める中で、日本にも第三国輸出を求めていることが明らかになった」と説明した。しかし、この答弁は信じ難い。共同開発の交渉段階で当然、議題になっていたはずだ。詰めを怠ったとすれば政府の失策であり、意図的に隠していたならば国民への背信行為だ。

 公明党議員は国会質疑で「戦闘機の輸出先で紛争に使われれば、地域の安定を失い、日本を取り巻く安全保障環境が損なわれるのではないか」「相手国の政権が代われば運用の適正管理が不可能になるのではないか」との懸念を示した。その通りだ。では今回の決定で懸念は払拭できるのか。自公協議は結論ありきではなかったのか。

 戦闘機という極めて殺傷能力の高い武器の輸出を認めれば、ほかの武器の第三国輸出のハードルは下がるのが現実だろう。日本の安保政策上、本当に必要なのか。真摯(しんし)な議論を求めたい。

 

戦闘機輸出の自公合意 なし崩しで突き進むのか(2024年3月16日『毎日新聞』-「社説」)

 

 安全保障政策の根幹に関わるルールが、与党の合意だけで変更される。国会で十分に議論されないことを危惧せざるを得ない。

 英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を日本が直接、第三国へ輸出できるようになる。難色を示していた公明党が、政府の歯止め策を受け入れ、容認に転じた。

 高い殺傷能力を持つ戦闘機の輸出は、国際紛争を助長する恐れがある。憲法の平和主義に反しかねない問題だ。 

 政府は2014年、従来の武器輸出三原則を転換し、防衛装備移転三原則に改めた。武器の輸出を慎むとしてきたものを、平和貢献や日本の安全保障に資する場合には輸出を認めることにした。

 昨年末には、三原則の運用指針を改定し、地対空ミサイルなど殺傷能力のある武器の完成品を含め、ライセンスを持つ国に輸出できるようにした。今回の合意により、殺傷武器の輸出が拡大することになる。

 歯止めが機能するかは疑問だ。 

 対象を次期戦闘機に限り、武器の適正管理などを定めた協定を日本と締結している国に輸出先を絞った上で、現に戦闘が行われている国を除外するという。三原則の運用指針の改定を閣議決定し、個別案件ごとの閣議決定もする。

 だが、協定締結15カ国のうち、どの国への輸出を想定しているのか不明だ。戦闘が行われている国には輸出しないというが、将来、戦端が開かれない保証はない。

 次期戦闘機は、航空自衛隊のF2の後継機として、35年の配備開始が予定される。開発が決まった22年当初は、完成品を輸出しない前提だった。英国、イタリアと協議する中で、コストを低減するため、日本も輸出を求められたという。応じなければ立場が弱くなり、日本が要求する戦闘機の性能が実現しない可能性があると政府は説明する。

 事実なら、見通しの甘さを認めたも同然だ。今後の共同開発でも同じようなことが起きかねない。

 ネットワーク性能向上などの必要性は理解できるが、経済合理性だけを優先し、原則を安易に曲げるようでは本末転倒だ。

 平和国家としての日本のあり方が問われている。なし崩しで進めるべきではない。

 

次期戦闘機輸出 安保協力を深める大事な一歩(2024年3月16日『読売新聞』-「社説」)

 安全保障環境が極端に悪化する中で平和を守るには、日本の防衛力を強化するのは当然として、友好国との協力を深めなければならない。


 防衛装備品の輸出政策はその重要なツールである。自民、公明両党が、日英伊3か国で共同開発する次期戦闘機について、第三国への輸出を認めることで合意したのは一歩前進だ。

 次期戦闘機は、航空自衛隊が2000年から運用しているF2の後継機として開発する。高度なステルス性や、無人機と連携するネットワーク戦闘能力を備え、35年頃の配備を予定している。

 開発費がかさむ戦闘機などの大型装備品は、資金を各国で分担する国際共同開発が主流だ。欧米諸国は、量産化によってコストを下げるため、完成品を第三国に積極的に輸出している。

 一方、装備品の輸出を制限してきた日本は、殺傷能力のある完成品の輸出先を、原則として同盟国である米国と、国際共同開発の相手国に限ってきた。

 次期戦闘機について、これまでの方針を見直さなければ、日本は英伊両国に技術を提供するだけで、共同開発のメリットを得られなくなる可能性があった。

 国際社会から、日本は制約の多い国だとみなされれば、様々な装備品の共同開発に参画しにくくなっただろう。

 新たな方針では、次期戦闘機の輸出先は、日本と「国連憲章に適合した使用」を義務付けた協定を結んでいる国に限る。現在の締結国は米英豪など15か国で、日本が輸出した装備品を侵略には使わないことなどを約束している。

 国際情勢の変化に合わせ、装備品の輸出政策を見直していくことは当然だ。今回の決定は、安全保障政策の大きな転換と言える。平和国家の理念に沿って輸出の条件を厳格に定めることは大切だ。

 ただし今回、第三国への輸出を認める装備品は次期戦闘機に限った。政府が今後、共同開発した装備品を第三国に輸出する場合、事前に与党と協議したうえで判断することになる。公明党の主張で厳しいハードルを課した形だ。

 だが、与党協議が難航すれば共同開発に遅れが生じ、友好国との関係に悪影響が出かねない。

 大事なことは、世界の平和のために日本の技術をどう生かすか、という視点に立ち、装備品の輸出の是非を判断することだ。

 政府・与党は常時、装備品の輸出に関する協議を行い、認識をすり合わせておく必要がある。