輪島塗の復興 技継承の伝統を守れ(2024年3月16日『東京新聞』-「社説」)

 

 

 能登半島地震は石川県の伝統工芸も直撃した。国重要無形文化財でもある輪島塗は、高度な技術を持つ職人の多くが被災して輪島市外に避難し、独自の分業システムが成り立たない危機だ。職人が制作できる場を早く整えたい。
 輪島塗には木地、塗り、加飾などの段階を通じ120ほどの細かい工程があり、1個に数人の専門の職人が携わる分業で堅牢(けんろう)優美な器を生んできた。輪島漆器商工業協同組合によると、職人をまとめ、製造から販売を担う103軒の「塗師屋(ぬしや)」のうち、13社が「朝市通り」の大火で本拠を失うなど、ほとんどが被災=写真。800人ほどの職人も多くが市外に2次避難しているという。
 地震前、職人たちは自宅兼工房で制作してきた。このため国は輪島市内に仮設の住宅兼工房を建設し、帰還の受け皿にする方針だ。一方、自力で再起を図る動きも。ある塗師屋は、職人の避難先の金沢市内に3階建てアパートを借り、ギャラリーを備える住居兼工房を整備。やがて輪島にも設け、「復興のモデルに」と意気込む。
 伝統的工芸品としての輪島塗ブランドは、地元の「地の粉」(珪藻土(けいそうど)の一種)を漆に混ぜ、輪島で製造するのが条件。業界はいずれ戻ることを前提に、当面は市外での製造でも同様の扱いを求めている。関係省庁は柔軟に対応してほしい。
 全国の漆器産地の中で輪島が特別なのは、人材育成への傾注にある。石川県立輪島漆芸技術研修所(専門3年制、基礎2年制)は、人間国宝などが直接、技術指導し、漆芸を志す人が集まる。塗りの技術「髹漆(きゅうしつ)」の人間国宝で所長の小森邦衛さん(79)も卒業生だ。小森さんは、今春卒業予定の17人だけには卒業制作を終えさせたいと奔走し、設備のある県内外5施設に受け入れてもらった。研修所は休講が続き、今春の入学も休止しているが、入学予定者には「2、3年待っても輪島で学びたい」という人がいるという。
 地域の誇りでもある技の継承は復興には欠かせない。能登に息づく七尾仏壇や和ろうそく、珠洲焼など、苦境にあるほかの工芸品にも光を当てたい。