公取委によると、日産は2021年1月から23年4月にかけて、部品メーカーなど下請け36社に支払う代金を、発注時に決めた額から数%減らしていた。減らした総額は約30億円。1956年の下請法施行以後、最も高い額だ。
大企業との価格交渉では、下請けは取引が打ち切られることを恐れて、減額の要求を断りづらい弱い立場にある。下請法は下請けの利益を保護するため、当事者間の合意があったとしても、発注時の金額から減らすことを禁じている。
日産はコスト削減の目標を達成するため、「割戻金」の名目で一度決めた額からの減額を毎年のように下請けに求めていた。下請けが業績の下がった時期に減額を拒んでも、日産の担当者が取り合わないこともあったとされる。
国際的な価格競争の中で、コスト削減を進めていく必要はある。だが、その負担を下請けに押し付ける手法は論外だ。日産は公取委から指摘された事実を認めており、減額分を既に各社に支払ったとしている。再発防止策を講じ、公表することも求められよう。
公取委はこうした行為が数十年前から行われていたとみている。公取委の調査には、日産からの要求について「受け入れなければならないものと思っていた」と説明する業者もあった。日産側も違法性の認識に乏しかったという。法の周知徹底が必要ではないか。
08年と21年には、別の自動車メーカーも同様の違反で勧告を受けている。自動車産業の体質が問われる事態だ。今回の勧告を踏まえ、公取委が業界団体の日本自動車工業会に再発防止を求めるとしたのは当然の対応といえる。
今春闘では、大手の満額回答が相次いでいる。物価高を上回る賃上げが国内雇用の7割を占める中小企業に広がるかどうかが、日本経済の持続的な成長の鍵を握る。
中小企業の賃上げの実現に向けては、コスト上昇分の取引価格への転嫁が強く求められている。下請けへの負担押し付けは、中小企業の賃金が抑えられてきた一因でもあった。物価高で国民生活の厳しさが増す中、大企業の利益確保のために中小企業の賃上げが阻害されることがあってはならない。
公取委は自動車産業以外にも、下請法に違反する恐れのある行為が近年継続して生じているとする。取引の適正化に向け、幅広く監視を強めていく必要がある。
日産の下請法違反 あしき慣習を根絶せよ(2024年3月15日『秋田魁新報』-「社説」)
日産自動車が下請け業者に支払う代金を不当に減額したのは下請法に違反するとして、公正取引委員会から再発防止の勧告を受けた。取引先が得るはずだった利益を奪う行為にほかならず、看過できるものではない。「下請けいじめ」とも呼ばれるあしき慣習を断たなければならない。