日産下請法違反/氷山の一角ではないのか(2024年3月7日『神戸新聞』-「社説」)

 大企業による悪質な「下請けいじめ」の典型と言える。

 下請け業者への支払代金を一方的に減らしたのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会日産自動車に対し再発防止を勧告する方針を固めた。数十年にわたり常態化していた可能性がある。

 公取委は日産が遅くとも数年前から、部品メーカーなど30社以上について事前に決めた額から数%前後を減らしていたと認定する方針だ。減額は下請法施行以来最高の計30億円に上ると推計される。すでに減額分は返却したというが、それで解決するわけではない。

 取引関係そのものが打ち切られるのを恐れて下請け側は断れなかったのだろう。物価や人件費が高騰する中、原材料費の上昇分を取引価格に転嫁できず苦しむ中小企業は少なくない。今回は氷山の一角ではないのかと懸念する。公取委は関係省庁と連携し、監視を強めてほしい。


 自動車製造には膨大な数の部材が必要で、日産などの大手を頂点にピラミッドのような下請け企業群が形成されている。不当な減額強要など下請法違反に相当する事例が生じやすく、過去にも公取委が複数の企業に再発防止を勧告した。

 日産は日本の経済界を代表する企業の一つで、取引先との共存共栄を模索する「パートナーシップ構築宣言」にも参加している。全ての取引先との関係をチェックして下請けいじめの実態を明らかにし、再発防止策を講じるべきだ。

 近年、公取委は法に触れる可能性がある企業を公表するなど、下請けいじめに厳しく目を光らせる。経済対策として中小企業の賃上げを促す政府の姿勢が背景に横たわる。

 中小企業で働く人は雇用者数全体の7割を占める。大企業ばかり潤っても、不当な取引で中小が苦境に立てば賃上げは見込めない。景気浮揚も期待できなくなる。

 2022年度に公取委は7万社を対象に下請けとの取引状況を調査し、8千件以上の指導や勧告を行った。23年度は対象を増やしているが、実態は外部から把握しにくい。

 下請法に関する公取委への相談件数は、22年度は約1万6千件に達している。中小が不当な取引に泣き寝入りせず、積極的に公的機関に相談することが、発注者側の横暴を食い止めるためには不可欠だ。

 大手と下請けは主従関係ではなく、技術開発や生産体制の見直しなどで互いの強みを生かした連携が求められる。一方的な負担を強いるコストダウンでは下請けの経営を悪化させ、大手にもプラスにならない。

 そのことを産業界全体が、改めて認識する必要がある。