日産が下請法違反 業界全体で重くとらえよ(2024年3月8日『産経新聞』-「主張」) 

 

 日産自動車が下請け業者への支払代金を一方的に減額したとして公正取引委員会が下請法違反と認定した。

 コストダウンを目的に、約2年間で下請け事業者36社を対象に合計30億円超を減額していたという。公取委は日産に再発防止を勧告し、社長を中心とする順法管理体制の整備を求めた。

 日産は令和6年3月期で売上高13兆円、最終利益3900億円を見込む世界的な大企業だ。自らの利益をかさ上げするために、下請け業者に支払代金の減額を強要する行為にはあきれるほかない。

 デフレからの完全脱却に向け原燃料などのコスト上昇分を製品価格に適正に転嫁しようという機運にも水を差す。日産は減額分全額を下請け業者に返還しているが、猛省を求めたい。

 下請法は下請け企業に原因がある場合などを除き、一度決めた支払代金を一方的に減額することを禁じている。公取委はこうした下請法違反行為が自動車業界全体で相次いでいるとし、業界団体である日本自動車工業会に再発防止を申し入れる方針も示した。

 政府は中小企業が賃上げを実現できるよう、取引の相手である大企業に対する監視を強めている。

 公取委は原材料費など中小企業のコスト上昇分を取引価格に転嫁するための交渉をしなかったなどとして、4年12月に大企業の社名を公表した。昨年11月には中小企業の人件費について取引価格に転嫁できるようにする指針も示している。

 経済産業省も昨年2月、コスト上昇分について中小企業との価格交渉や転嫁に後ろ向きな大企業の実名を初めて公表した。取引の実態を調査し、下請け企業の保護を図る専門調査員「下請けGメン」も約300人体制に増員している。

 歴史的な物価上昇に賃上げが追いつかず、物価変動を加味した実質賃金は前年割れが続く。物価上昇を上回る賃上げを社会全体で実現するには、雇用の7割を占める中小企業にも波及させることが欠かせない。

 発注側の大企業は日産に対する勧告を他山の石とすべきだ。コスト上昇分を取引価格に適正に転嫁し、賃上げを社会全体に広げていかなければ、デフレからの脱却がおぼつかないことを改めて銘記したい。

 

日産下請法違反 賃上げ妨げるあしき慣行(2024年3月8日『新潟日報』-「社説」)

 大手企業による悪質な「下請けいじめ」だ。中小・零細企業の労働者の賃上げにも影響を及ぼす。

 二度と繰り返さないように国は厳しく指導して、他の産業でも同様の違反がないか徹底的に調査してほしい。

 自動車部品メーカーなどの下請け業者への支払代金を減額したのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会は7日、自動車メーカー大手の日産自動車横浜市)に再発防止を勧告した。

 日産はタイヤホイールといった部品メーカーなど36社を対象に、一度決まった支払代金から数%前後を減らし、約2年間で計30億2千万円超を減額したと公取委は認定した。社長を中心とする順法管理体制を整備するよう求めた。

 減額幅は日産と下請け間で協議し、下請けの意向も踏まえ決めたという。しかし、下請法は、下請け側に責任がある場合などを除き、当事者間の合意があっても発注金額からの減額を禁じている。

 数十年前に始まり常態化していたとみられる。日本を代表する企業で、あしき商慣行が長年続いていたことは、残念でならない。

 日産は「重く受け止める」とコメントを出した。減額分全額を下請け側に返金したとするが、トップは会見を開き、減額の詳細や再発防止策などを説明するべきだ。

 自動車業界は大手を頂点とするピラミッド形の構造に例えられ、部品メーカーは安定した取引が期待できる半面、大手より弱い立場に置かれることが多い。

 部品メーカーの関係者は、受注後も毎年のように値引きを求められ、生産を効率化できなければ自社で負担し「泣き寝入り」するしかなかったとしている。

 公取委はこれまでマツダに対しても、不当に減額したなどとして、再発防止を勧告している。

 日本経済は今、中小企業にも物価高を上回る賃上げが広がり、持続的な経済成長へつなげられるかどうかが問われている。

 このため賃上げを妨げる一方的な減額など、不適切な取引に対して公取委は監視を強化している。

 公取委が受け付けている下請法などの相談件数は、2018年度の約9千件から22年度は約1万6千件に増えた。他の企業や業種でも不当な取引が行われていないか懸念される。

 政府は昨年、受注側の中小企業が、労務費を取引価格へ適正に転嫁できるようにするための指針を公表した。

 指針には、価格交渉で「発注者から協議の場を設ける」といった項目を盛り込み、発注側が協議に応じず価格を据え置くことは、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に該当し、下請法にも抵触する恐れがあると明記した。

 発注側は、下請け企業も対等のパートナーであるという認識を持つことが求められる。