日産自動車の経営陣は、長年にわたって続くあしき商慣行を正せるだろうか=ロイター
日産の支払い減額強要 許されぬ下請けへの圧迫(2024年3月8日『毎日新聞』-「社説」)
下請け企業の弱い立場につけ込んで、大企業が不当な利益を得ることは許されない。
日産自動車が部品メーカーに値引きを強要したとして、公正取引委員会から再発防止の勧告を受けた。納入代金の不当な減額を禁じた下請け法に違反する行為だ。
事前に合意した価格から、日産が一方的に数%減らした額を支払っていたという。被害を受けた部品メーカーは確認できただけで36社に上り、昨春まで約2年間で計30億円超が減額されていた。同様の事案では過去最大となる。
自動車産業は完成車メーカーを頂点に、原材料や部品を供給する下請けが連なるピラミッド型の構造となっている。発注者は競争力強化のためのコスト削減目標を一方的に定め、取引先に押しつけることも多い。大手からの受注に依存する中小中堅企業は、取引を続けるために無理な要求でも従わざるを得ない。
優位な立場にある大企業にとっては都合の良い仕組みだ。だが、「下請けいじめ」で得た利益は、真の収益力を反映したものとはいえない。
日産では長年にわたって引き継がれてきた慣行で、担当者には違法性の認識すらなかったという。それだけ問題は根深く、企業体質を根幹から改める必要がある。
正せるのは経営トップしかいない。自動車メーカーの部品調達部門は経営の中枢にあたる。実態を知りながら放置してきたなら、無責任というほかない。経営陣は先頭に立って是正すべきだ。
しわ寄せは2次、3次の下請けにも及んでいる可能性がある。ただでさえ、原材料費の高騰で中小企業の収益は圧迫されている。とりわけ人件費の取引価格への転嫁は難しく、大企業との賃金格差が広がる一因となっている。
適正な価格転嫁は春闘でも論点となっている。中小企業の賃上げのカギを握るからだ。大企業の労働組合は取引先の労組と情報を共有し、供給網全体の待遇改善を目指してほしい。
日本の製造業の強みは中小中堅企業の高い技術力にある。現場の体力を奪う振る舞いを許せば、国際競争力の低下を招きかねない。政府と産業界を挙げて悪弊を解消しなければならない。
日産が下請法違反 業界全体で重くとらえよ(2024年3月8日『産経新聞』-「主張」)
日産自動車が下請け業者への支払代金を一方的に減額したとして公正取引委員会が下請法違反と認定した。
コストダウンを目的に、約2年間で下請け事業者36社を対象に合計30億円超を減額していたという。公取委は日産に再発防止を勧告し、社長を中心とする順法管理体制の整備を求めた。
日産は令和6年3月期で売上高13兆円、最終利益3900億円を見込む世界的な大企業だ。自らの利益をかさ上げするために、下請け業者に支払代金の減額を強要する行為にはあきれるほかない。
デフレからの完全脱却に向け原燃料などのコスト上昇分を製品価格に適正に転嫁しようという機運にも水を差す。日産は減額分全額を下請け業者に返還しているが、猛省を求めたい。
下請法は下請け企業に原因がある場合などを除き、一度決めた支払代金を一方的に減額することを禁じている。公取委はこうした下請法違反行為が自動車業界全体で相次いでいるとし、業界団体である日本自動車工業会に再発防止を申し入れる方針も示した。
政府は中小企業が賃上げを実現できるよう、取引の相手である大企業に対する監視を強めている。
公取委は原材料費など中小企業のコスト上昇分を取引価格に転嫁するための交渉をしなかったなどとして、4年12月に大企業の社名を公表した。昨年11月には中小企業の人件費について取引価格に転嫁できるようにする指針も示している。
経済産業省も昨年2月、コスト上昇分について中小企業との価格交渉や転嫁に後ろ向きな大企業の実名を初めて公表した。取引の実態を調査し、下請け企業の保護を図る専門調査員「下請けGメン」も約300人体制に増員している。
歴史的な物価上昇に賃上げが追いつかず、物価変動を加味した実質賃金は前年割れが続く。物価上昇を上回る賃上げを社会全体で実現するには、雇用の7割を占める中小企業にも波及させることが欠かせない。
発注側の大企業は日産に対する勧告を他山の石とすべきだ。コスト上昇分を取引価格に適正に転嫁し、賃上げを社会全体に広げていかなければ、デフレからの脱却がおぼつかないことを改めて銘記したい。
日産下請法違反 賃上げ妨げるあしき慣行(2024年3月8日『新潟日報』-「社説」)
大手企業による悪質な「下請けいじめ」だ。中小・零細企業の労働者の賃上げにも影響を及ぼす。
二度と繰り返さないように国は厳しく指導して、他の産業でも同様の違反がないか徹底的に調査してほしい。
自動車部品メーカーなどの下請け業者への支払代金を減額したのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会は7日、自動車メーカー大手の日産自動車(横浜市)に再発防止を勧告した。
日産はタイヤホイールといった部品メーカーなど36社を対象に、一度決まった支払代金から数%前後を減らし、約2年間で計30億2千万円超を減額したと公取委は認定した。社長を中心とする順法管理体制を整備するよう求めた。
減額幅は日産と下請け間で協議し、下請けの意向も踏まえ決めたという。しかし、下請法は、下請け側に責任がある場合などを除き、当事者間の合意があっても発注金額からの減額を禁じている。
数十年前に始まり常態化していたとみられる。日本を代表する企業で、あしき商慣行が長年続いていたことは、残念でならない。
日産は「重く受け止める」とコメントを出した。減額分全額を下請け側に返金したとするが、トップは会見を開き、減額の詳細や再発防止策などを説明するべきだ。
自動車業界は大手を頂点とするピラミッド形の構造に例えられ、部品メーカーは安定した取引が期待できる半面、大手より弱い立場に置かれることが多い。
部品メーカーの関係者は、受注後も毎年のように値引きを求められ、生産を効率化できなければ自社で負担し「泣き寝入り」するしかなかったとしている。
公取委はこれまでマツダに対しても、不当に減額したなどとして、再発防止を勧告している。
日本経済は今、中小企業にも物価高を上回る賃上げが広がり、持続的な経済成長へつなげられるかどうかが問われている。
このため賃上げを妨げる一方的な減額など、不適切な取引に対して公取委は監視を強化している。
公取委が受け付けている下請法などの相談件数は、2018年度の約9千件から22年度は約1万6千件に増えた。他の企業や業種でも不当な取引が行われていないか懸念される。
政府は昨年、受注側の中小企業が、労務費を取引価格へ適正に転嫁できるようにするための指針を公表した。
指針には、価格交渉で「発注者から協議の場を設ける」といった項目を盛り込み、発注側が協議に応じず価格を据え置くことは、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に該当し、下請法にも抵触する恐れがあると明記した。
発注側は、下請け企業も対等のパートナーであるという認識を持つことが求められる。