日産下請けいじめに関する社説・コラム(2024年3月13日)

下請けいじめ 「慣例」で済ませられない(2024年3月13日『毎日新聞』-「社説」)

 

 業界全体、ひいては日本経済全体に関わる根深い問題だ。

 下請け業者への支払代金を不当に減額したとして、公正取引委員会日産自動車に対して再発防止を勧告した。

 下請法違反に当たるとの判断である。同法は、下請け側に原因がある場合を除き、一度決まった代金を発注側が一方的に減額することを禁じている。

 昨年4月まで約2年にわたり、36社に対し計約30億円を減額していたと認定した。同法施行の1956年以来、最高額という。

 違法な減額は認定分にとどまらず、数十年前から常態化していたとみられる。日産は問題の背景を含めて詳細な調査を行い、公表すべきだ。同じことを繰り返さない体制を整えねばならない。

 発注側の大手が受注側の中小企業に減額などを強いる行為は「下請けいじめ」と言われる。弱い立場へのコストダウンのしわ寄せである。程度の差はあれ、日産に限らず多くの大手企業に広がっているとみていいだろう。

 きのうも、大型スーパーを展開するコストコが、プライベートブランド商品を製造する下請けへの支払代金を減額したとして、公取委の勧告を受けた。

 こうした減額が、下請けの経営を圧迫するにとどまらず、さらなる悪影響を経済全体にもたらしている点に目を向けたい。

 中小企業が製造にかかった原材料費などを納入価格に適正に転嫁できない状況では、従業員の賃上げの原資を得るのは難しい。すると中小企業に十分に賃上げが広がらず、消費拡大による経済の好循環も望めなくなる。

 そうして景気低迷が続けば、結局は大手の売り上げ増加も期待できない。巡り巡って自らの首を絞めているような構図である。

 公取委は昨年、賃上げに向けて労務費を価格転嫁できるようにするための取引指針を公表。「発注者から協議の場を設けること」といった項目を盛り込んだ。

 下請けいじめという悪弊をなくすことができないようでは、指針に沿った公正な価格転嫁など到底期待できない。

 日産のケースでは、減額の持ちかけが「慣例」になっていたという。下請けの一部は「受け入れなければいけないものだと思っていた」とも説明している。

 自動車産業は、日産のような大手を1次、2次、3次と多くの下請けが支える構造で、ピラミッドにも例えられる。意識改革に向けた頂点の企業の責任は重い。

 

日産の違法行為 下請けいじめを根絶せよ(2024年3月13日『西日本新聞』-「社説」)

 

 下請け業者の弱い立場につけ込み、支払代金の減額を強要するのは明白な違法行為である。誰もが知る大企業が悪質な下請けいじめを続けていたとは言語道断だ。

 公正取引委員会は、下請法違反(代金減額の禁止)が認められたとして、日産自動車横浜市)に再発防止措置を取るよう勧告した。

 2021年1月から2年余りの間に、部品メーカーなどの下請け36社に「割戻金」名目で一度決まった支払代金を不当に減額していたという。総額は30億円を超え、過去最高額の違反だ。

 日産は減額分を支払い、割戻金の運用を廃止して「法令順守体制を強化し、再発防止策の徹底に取り組む」とコメントを公表したが、これで十分とは思えない。減額を強いられた取引先や総額はもっと多いはずだ。過去にさかのぼって調査し、把握できた事実を公表すべきだ。

 何の落ち度もない下請け業者への支払代金減額が、日産でいつ始まったかははっきりしない。経営危機に陥り、フランスの大手ルノーの傘下に入る1999年以前から行われていたという。

 日産は割戻金をコスト削減策の一つと位置付けていた。担当社員から役員まで違法と認識していなかったと釈明したそうだ。本当だろうか。

 下請法は、元請けが発注時に決めた金額を減らして支払うことを禁止している。公取委のガイドブックは「下請け業者との合意があっても下請法違反」と明記している。

 日産の調達担当者は、社内で課せられた原価低減目標の達成が難しくなると、下請け業者に連絡して負担を押し付けていた。合意を示す書面も交わしていた。不適切にもほどがある。

 下請法の対象外である取引先にも同様に、減額を強要していた可能性がある。

 問題が発覚してから、日産はホームページに謝罪コメントを載せただけで記者会見を開いていない。

 この対応には経済界から苦言が出ている。小林健日本商工会議所会頭は「極めて遺憾だ。社会的影響が大きく、トップの説明責任がある」と述べた。日産の経営陣は重く受け止めるべきだ。

 自動車業界では支払代金の減額事件が頻発している。2004年以降、公取委による勧告は14件で、マツダ広島県)や西日本鉄道(福岡市)の子会社だった西日本車体工業北九州市)が含まれる。

 自動車業界は完成車メーカーを頂点に1次下請け、2次下請け、3次下請けが支えるピラミッド構造で、取引先に対するコスト削減要請が日常茶飯事となっているのも違法行為が続く一因だろう。

 公取委は業界団体の日本自動車工業会に下請法の周知、啓発を求める。日本経済の喫緊の課題である賃上げを中小零細企業に広げるためにも、この悪弊は業種業態を問わず根絶しなければならない。