紛争と国際機関 法の支配回復を力強く(2024年3月13日『東京新聞』-「社説」)

 オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所ICC)の所長に赤根智子(あかねともこ)裁判官が選ばれた。世界各地で紛争が泥沼化している。国際機関が協調し、対話を通じた「法の支配」回復を推し進めることが重要だ。
 ICCは大量虐殺、戦争犯罪などを犯した個人を国際法に基づいて訴追、処罰する国際機関。締約国か国連安全保障理事会ICC検察官に付託すれば、ロシアなどICC非加盟国も管轄できる。
 ICCとは別に、国家間の紛争を解決する国連の司法機関、国際司法裁判所(ICJ)もある。
 赤根氏を含むICC裁判官3人は昨年3月、ロシアによるウクライナの子ども連れ去りに関与した戦争犯罪容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出し、反発したロシア側は赤根氏らを指名手配した。
 赤根氏のICC所長選任は、国際社会がロシアの脅しに屈せず、法の支配の回復に向けた強い意志を示したことを意味する。
 ただ国連は国際紛争を止められず、グテレス事務総長は「時代遅れの組織」と嘆く。安保理常任理事国のロシアと米国がウクライナとガザの戦闘を巡り拒否権を行使し合い、機能不全に陥った。
 国際の平和と安全に責任を持つべき常任理事国が自ら戦争を仕掛けること自体が想定外だ。
 一方、安保理と並ぶ国連の最高機関である総会の役割が見直されている。193の全加盟国が1国1票を持ち、意見を表明できる場は国連しかない。総会議長を務めるフランシス氏は2月、日本記者クラブでの記者会見で「政治的な環境は非常に厳しい」と認めつつ国連の存在意義を強調した。
 総会は2022年4月、常任理事国が拒否権を使った場合、理由の説明を求める制度を創設した。フランシス氏は「法的拘束力はないが、国際世論を動かすことができる」と意義を強調する。
 赤根氏の所長選任を受け、上川陽子外相は「わが国は引き続きICCの発展を支援し、法の支配の推進に貢献する」と表明した。
 日本は現在、安保理非常任理事国で、3月は輪番制の議長国を務める。日本政府は国連、ICCはじめあらゆる国際機関と連携し、紛争終結と法の支配の回復に向けた努力を惜しんではならない。