ウクライナ支援 内向きの米国への憂い(2024年4月30日『東京新聞』-「社説」)

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 米国で、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援を盛り込んだ緊急予算が成立した。米議会内の対立を経て、4カ月ぶりに支援を再開したが、米国が内向きとなれば、武力による一方的な現状変更が横行しかねないか危惧する。
 独キール世界経済研究所によると、2022年にロシアによる侵攻が始まって以降、米国からウクライナへの支援は718億ドル(11兆円超)。国内総生産GDP)比では欧州諸国よりも低いが、額としては突出する。
 支援予算が枯渇してきた昨年10月、バイデン大統領=写真、AP・共同=は追加の予算案を示し、議会に可決を要請したが、議会下院の多数派を握る野党・共和党が「ウクライナより米国内を重視するべきだ」と反発したため可決できず、昨年末で資金が尽きた。
 戦費不足に陥ったウクライナ軍は苦戦を強いられ、市民を含めた死傷者は増えている。
 共和党の反対は「米国第一」を掲げ、支援に反対するトランプ前大統領の影響だ。米政府は今回、融資による支援というトランプ氏の案を一部反映させて可決にこぎつけたが、それでも共和党の保守強硬派は反対した。
 軍事支援をいつまでも続けることはできないし、「自分たちの税金は自国に」という保守派の主張ももっともではある。
 しかし、ロシアは08年にジョージア、14年にはウクライナクリミア半島に侵攻。当時の国際社会の甘い対応が今回のウクライナ侵攻につながったことは否めない。
 イスラエルパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続け、中国は台湾への軍事圧力を強めている。北朝鮮はミサイル発射を繰り返す。
 無法を放置すると、武力による一方的な現状変更を禁じた国連憲章を空文化させ、暴力が幅を利かせる世界を招来しかねない。それは米国にも脅威になるだろう。
 トランプ氏が大統領に再選すれば、対外支援は削減される可能性が高く、国際情勢の不安定化を招き、その影響は米国にも及ぶ。国際法への挑戦には毅然(きぜん)と立ち向かう米国であるべきだ。眼前の人気取りに拘泥してはならない。