戦争や震災、コロナ禍などの難局にあっても、人々を楽しませ続けてきた。
八代目桂文楽、五代目古今亭志ん生、五代目柳家小さんらを輩出した落語界最大の団体、落語協会が誕生から100年を迎えた。
創立前年の1923年に関東大震災が起きた。下町にあった江戸時代から続く寄席がほぼ壊滅し、落語家は多くが上方や地方に演じる場を求めた。
それまで落語家は、離合集散を繰り返してきた。芸と、それを支える寄席の危機を前に、大同団結して作ったのが落語協会である。
座布団に座り、一人で心象や情景を描く。究極のアナログ芸だ。この1世紀の間、映画やテレビ、インターネットが普及し、娯楽は様変わりした。
人工知能(AI)も出現したデジタル時代に、大衆芸能としてどう生き残っていくか。鍵を握るのは落語の世界に息づく多様性だ。
予備知識が必要な、かしこまった芸ではない。弱さや欲といった業もひっくるめて人間を肯定し、喜怒哀楽に寄り添う。そこつ者も、なまけ者の若旦那も、誰も排除されない。
かつては男性社会だったが、近年は女性落語家の活躍が目立つ。
昨年3月には落語協会の女性だけによる寄席の番組があった。画期的な取り組みだ。今月下旬、女性初の抜てきによる真打ちが誕生する。
古典だけでなく、女性の視点による改作や新作など演目の幅も広がり、古くからの観客にも受け入れられる環境が整ってきた。こうした流れが、落語の未来を開く力になるはずだ。
コロナ禍では一時、寄席の灯が消え、経営的にも苦境に追い込まれた。
共に東京の落語界をけん引する落語芸術協会とタッグを組んだ寄席支援のクラウドファンディングには1億円以上集まった。ファン層の厚さを示すものだ。
この季節によく演じられる「長屋の花見」では、庶民のたくましさ、コミュニティーの絆が描かれる。世知辛くなった現代社会だが、根底にある人間の泣き笑い、情は変わらないはずだ。
落語を楽しむことのできる世界を大切にしたい。