乖離(2024年3月12日『新潟日報』-「日報抄」)

 恥ずかしい話だが、読めるけれど書けない漢字が数多くある。若い頃から原稿を書く際はパソコンの変換に頼ってきたから、不勉強を後押ししている

▼書けない字の一つが「乖」だ。「乖離(かいり)」という単語を紙面で目にする機会は少なからずある。自分の原稿でも使うことがある。しかし、いざ紙に書いてみろと言われたら、正解を記せる自信はまったくない

▼目を凝らすと「北」という字を「千」のような部分が隔てている。手元の漢和辞典を開いた。北という字はもともと、人が互いに背を向けている様子を表したものだったらしい。乖の字の千のような部分は、羊の角がそれぞれ反対方向を向いている様子を表しているようだ

▼なるほど、反対を向く様子を表すものを組み合わせて「離れる」とか「背く」といった意味を強調したのか。成り立ちを知ると、自力でも書けそうな気がしてきた

▼先日も「乖離」という言葉を紙面上で見つけた。能登半島地震で被災した建物の被害認定について、国の認定基準と液状化被害の実態に乖離があるという。自宅が30センチほど沈下して傾いたのに、認定結果は6段階のうち下から2番目の準半壊にとどまった男性の嘆きが載っていた

▼専門家によると、被害認定は揺れによる基準で調査しており「液状化被害では判定は低くなる」傾向があるという。「基準が実態に合っていない」との指摘もあった。被害と認定基準の間に乖離があってはなるまい。実相から目を背けることのない基準であってほしい。