オスプレイ飛行再開決定に関する社説・コラム(2024年3月12日)

住民の不安拭えず拙速だ/オスプレイ飛行再開決定(2024年3月12日『東奥日報』-「時論」)

 

 米軍は昨年11月に鹿児島県・屋久島沖で起きた墜落事故を受けて停止していた輸送機オスプレイの飛行再開を決定、日本に配備している機体の飛行再開に向けた調整を日本側に申し入れた。米軍は事故を受けて全軍で飛行を停止していたが、事故の際に発生した機器の故障を特定し、構造上の欠陥はなかったとして飛行再開を決めた。

 米側の決定を踏まえて防衛省も、陸上自衛隊に配備しているオスプレイの飛行再開が可能と判断したと発表した。

 ただ、米空軍特殊作戦司令部のこれまでの発表では、機器に故障が起きた原因自体はまだ不明で、分析を継続中だとしている。搭乗員8人が死亡するという日本国内で初めてのオスプレイの死亡事故は、屋久島沖の海上で起きた。これが住宅地の上で起きていたらもっと重大な被害が出ていたのは確実だ。故障原因が不明のままオスプレイの飛行を再開するのでは、基地周辺や飛来地域の住民の不安は募るばかりだ。再開は拙速過ぎる。

 日本政府が最優先すべきなのは、国民の命を守ることだ。防衛省は米側の調査が継続中だとして詳細を公表していないが、それで国民の理解が得られるのか。詳細な情報を公開するのが政府の当然の責務だろう。陸自配備のオスプレイの飛行再開も、米側の調査情報を踏まえて、独自に慎重に判断すべきだ。

 オスプレイはヘリコプターのように垂直離着陸が可能。さらに上空で主翼の角度を変えて固定翼機のように飛行できる特殊な構造が特徴だ。

 事故率が特段高いわけではないとも説明されるが、2016年には普天間飛行場(沖縄)所属の海兵隊仕様のMV22が不時着して大破。昨年8月にはオーストラリアでMV22が墜落し、3人が死亡するなど事故が相次いでおり、不安視する声は絶えない。

 屋久島沖で事故を起こしたのは横田基地(東京)所属の空軍仕様のCV22で、飛行中に火を噴くところが目撃されるなど、空中で制御不能になったとみられている。事故機と同型機は近年、米軍が本県の小川原湖でも救難訓練に使用していた。国内では横田基地のほか、普天間飛行場にMV22が配備され、各地を飛行している。自衛隊陸自仕様のV22を木更津駐屯地(千葉)に暫定配備している。

 米軍は日本国内での事故を受け、昨年12月から全軍で飛行を停止していた。原因が解明されない段階で飛行を再開するのは、停止期間が長期に及んでおり、操縦士の練度が低下するのを恐れるためだろう。だが、それよりも重視すべきなのは住民の安全であることは言うまでもなかろう。

 日米地位協定などに基づき、日本政府には米軍の飛行再開を停止する権限はない。だが、日米同盟が国民の信頼に基盤を置く以上、国民が納得する形でなければ再開は認められない。

 事故直後、沖縄県玉城デニー知事は「事故原因究明まで飛行停止を求める」と発言した。しかし岸田文雄首相は「事故の実態を確認した上で考える課題だ」と腰が引けた対応を取り、飛行停止の申し入れまでに時間がかかった。

 今回も米側の方針に一方的に従うのではなく、日本国民の不安を取り除く真摯(しんし)な対応が日米両政府に求められる。拙速に飛行を再開すれば、同盟の基盤が損なわれると指摘したい。

 

オスプレイ飛行再開 国民の不安は払拭されぬ(2024年3月12日『福井新聞』-「論説」

 
米軍は昨年11月に鹿児島県の屋久島沖で起きた墜落事故を受けて停止していた輸送機オスプレイの飛行停止を解除し、在日米軍自衛隊保有機の飛行再開に向けた調整を日本側に申し入れた。事故を受けて全軍で飛行を停止していたが、構造上の欠陥はなかったとして飛行再開を決めた。米側の決定を踏まえ防衛省陸自に配備しているオスプレイの飛行再開が可能と判断したと発表した。

 ただ、米軍側のこれまでの発表では、機器に故障が起きた原因自体はまだ不明で、分析を継続中だとしている。木原稔防衛相は「今回、ようやく米側の説明が合理的だと得心する域に達した」と述べたものの、事故原因の詳細は明らかにしていない。米側の報告書が公開されるまでは米国内法上の制限があるとして「つまびらかにできない部分もある」と指摘した。

 これでオスプレイが配備された在日米軍基地や自衛隊基地近辺の住民は無論、日本国内を飛行する可能性がある以上、国民の理解が得られるというのか。日本政府が最優先すべきは、国民の命を守ることだ。詳細な情報を公開するのが政府の当然の責務であり、再開は拙速すぎると言わざるを得ない。

 オスプレイはヘリコプターよりも航続距離が長く、スピードも速いことから有事において不可欠な存在とされる。日本国内では横田基地(東京)のほか、普天間飛行場(沖縄)にMV22が配備され、各地を飛行。自衛隊陸自仕様のV22を木更津駐屯地(千葉)に暫定配備している。屋久島沖で事故を起こしたのは横田基地所属のCV22で、搭乗員8人が死亡するという日本国内では初めてのオスプレイの死亡事故だった。

 事故率が特別に高いわけではないとされるものの、2016年には普天間飛行場所属のMV22が不時着して大破し、昨年8月にはオーストラリアでMV22が墜落し3人が死亡した。この2年に4件の死亡事故で20人が亡くなっており、米国では「空飛ぶ棺おけ」とも称されている。米軍は事故に関して説明責任や透明性が欠如しているとの指摘があり、米国内でも懸念が広がっているという。

 米軍が飛行再開を決めたのはこれ以上、停止させれば乗員や整備士の練度が低下してしまうとの焦りからではないか。日本政府が決定を追認したのは日米地位協定などに基づいた「権限なし」にほかならない。日米同盟が国民の信頼に基づく以上、国民が納得する形でなければ再開は認められない。国民の不安を払拭する真摯(しんし)な対応が日米両政府に求められる。拙速な再開では同盟の基盤が損なわれかねないと重く受け止める必要がある。

 

オスプレイ再開へ 住民の安全軽んじている(2024年3月12日『新潟日報』-「社説」)

 詳細な事故原因を明らかにしないままで、飛行再開を決定するのは拙速過ぎる。安全を求める住民の思いを踏みにじるものだ。

 防衛省は、米軍がオスプレイの飛行停止措置を解除したと発表した。オスプレイは、昨年11月に鹿児島県・屋久島沖で8人が死亡する墜落事故を起こし、米軍が全世界での飛行を停止していた。

 防衛省は「原因が特定され、安全に再開できることが確認できた」としている。陸上自衛隊オスプレイも再開する方針だ。

 問題なのは、米軍が原因となった部品の不具合を特定したが、防衛省が具体的な部位や内容は明らかにできないとしたことだ。

 米軍の事故調査が継続し、訴訟などへの対応も含まれるなど米国内法上の制限があるためとの説明を受けたとしている。

 政府は米側の報告を聞くだけでなく、国民の安全を守るために毅然とした対応が求められる。

 再開の具体的な時期は、今後日米間で引き続き調整するという。防衛省は再開へ向けた関係自治体への説明を本格化させる。

 木原稔防衛相は「これまでにないレベルで詳細に報告を受けた」とするものの、つまびらかにできない部分があり、ぎりぎりの内容で説明するという。

 住民が納得できる丁寧な説明が欠かせないが、「手持ちの情報が少ない状態で、住民に理解をしてもらうことなんてできるのか」と漏らす自衛隊幹部もいる。

 住民の不安が解消できるとは、思えない。

 墜落を目撃した屋久島の住民は「具体的な原因は私たちに分からず、腹立たしい」と話す。政府は重く受け止めるべきだ。

 日米間で技術情報をやりとりした結果、事故機固有の不具合ではなく、陸自機などでも発生する恐れがあると分かったことも気になる。陸自は14機を配備済みだ。

 安全対策として、異常探知システムによる点検と整備の頻度を上げることなどを決めたというが、それで十分なのか。

 オスプレイは事故が頻発し、安全性への疑念は高まるばかりだ。徹底的な原因究明と再発防止策を示さねばならない。

 米軍が再開を急ぐ背景には、飛行停止が約3カ月に及び、操縦士の練度や機体の整備が課題となっていることがあるとみられる。

 台湾有事を念頭に、部隊を島しょ部に分散展開させる作戦に、オスプレイは欠かせない。飛行停止により、九州・沖縄で実施中の海兵隊陸自による訓練に参加できなかった焦りもあるだろう。

 政府は「南西シフト」を拡大して鹿児島県や沖縄県の南西諸島を中心に防衛力を強化しており、現地では不安が強まっている。

 対米追随で国民への十分な情報提供がなされないようでは、住民の信頼は得られない。

 

オスプレイ再開】安全への懸念が拭えない(2024年3月12日『高知新聞』-「社説」)

  
 米軍は、鹿児島県・屋久島沖で昨年11月に起きた墜落事故を受けて飛行停止にしていた輸送機オスプレイについて、飛行再開を決めた。防衛省は米方針を受け入れ、在日米軍陸上自衛隊保有する機体の飛行再開へ調整を進める方針だ。
 ただ、米側は「部品の不具合を特定した」とする以外は事故原因の詳細を明らかにせず、安全性の懸念が払拭されたとは到底言えない。
 オスプレイは飛行停止前、沖縄県をはじめ国内の住宅地の上空を飛行していた。防衛省は、飛行再開前には関係自治体に通知するとしているが、より具体的で根拠のある説明ができなければ、首長や住民の納得は得られないのではないか。
 日本政府は、住民の安心・安全を最優先した姿勢を取るべきであり、主体性が問われる。
 屋久島沖の墜落事故では搭乗員8人が亡くなり、オスプレイ事故としては開発段階を除いて最多の死者を出した。これまでに多くの事故を起こし、不安視されてきた機体の安全性に、改めて疑問符がついた。
 事態の深刻さは、既に世界に470機以上を保有し、飛行停止にすれば安全保障戦略に大きな影響が予想されるにもかかわらず、それに踏み込まざるを得なかった米軍の対応こそが物語る。信頼を大きく損ねただけに、米側には原因究明の徹底と、安全を裏付ける積極的な情報開示が求められた。
 しかし事故原因については、部品の不具合に言及した以外は米国法の制限などを理由に明かさない。事故調査自体もまだ継続中という。それでも飛行再開を決めたのは、長期停止で機体が訓練に参加できない、操縦技術が後退するなどの影響を危惧しているためとの見方もある。
 見切り発車の要素を否めないが、日本側も同調する。非公開で米から説明を受けた木原稔防衛相が「私自身も合理的だと納得している」と述べるなど、米方針を了とし、陸自保有機も飛行再開させることを決めた。だが、その判断は国民不在であり、米との関係を優先しているとみられても仕方あるまい。
 そもそも事故を巡っては、日本の存在感の低さが指摘されてきた。日米地位協定に基づき、日本には米軍オスプレイの飛行再開を停止する権限はない。事故発生後、飛行停止要請をしても機体はしばらく沖縄県内を飛び交っていた。
 搭乗員の遺体や回収された事故機の残骸が米側に引き渡され、日本の捜査権を制限する協定の壁も改めて浮き彫りになった。このような状況を考えれば、飛来地域の住民が不安を持つのは当然だ。
 航続距離が長くスピードも速いオスプレイは、中国の海洋進出に備える自衛隊の「南西シフト」の主力装備であり、陸自は17機を導入予定。既に14機は調達済みだ。
 日本の防衛はオスプレイへの依存度を高めているが、優先すべきものを間違えてはいけない。日米同盟の中でも、主張すべきは主張していく必要がある。

 

オスプレイ 飛行再開の決定は拙速だ(2024年3月12日『熊本日日新聞』-「社説」)

 米軍は輸送機オスプレイの飛行再開を決定した。昨年11月に鹿児島県・屋久島沖で空軍所属機が墜落して8人が死亡する事故が起き、全世界で飛行を停止していた。この決定を受け、防衛省陸上自衛隊に配備するオスプレイの飛行再開を可能と判断した。

 米軍は事故の際に発生した機器の故障を特定し、構造上の欠陥はなかったと判断した。しかし、米空軍特殊作戦司令部のこれまでの発表では、その原因は分析中とされている。原因が究明されなければ故障は再び起きかねない。米軍の決定は拙速ではないか。

 木原稔防衛相は記者会見で「特定の部品の不具合が事故原因だと、これまでにないレベルで詳細に報告を受けた。私自身も合理的であると納得している」と述べた。今後は防衛省の担当者が可能な限り関係自治体を訪ね、直接対面して説明するとしている。

 ただ、不具合の具体的な部位や内容は公表されていない。防衛省も詳細を説明していない。米側の調査には訴訟や懲戒処分への対応も含まれるため、報告書が公開されるまで米国内法上の制限によって明らかにできないという。

 これで関係自治体や住民の理解が得られるだろうか。米軍のオスプレイを巡っては海兵隊所属機の事故も相次ぎ、米カリフォルニア州では5人、オーストラリアでは3人が犠牲となっている。詳しい情報に裏打ちされた説明でなければ、不安は解消できないはずだ。

 オスプレイはヘリコプターより速く飛行でき、積載量と航続距離も優れている。台湾有事を念頭に置く米軍にとって欠かせない輸送機とされている。屋久島沖での事故後、米国内外の400機超が地上待機となった。米軍は操縦士の練度の低下などを懸念し、飛行再開に踏み切ったとみられる。

 一方、中国の海洋進出をにらんで九州・沖縄の防衛力を強化する自衛隊にとっても、オスプレイは「南西シフト」の主力装備だ。陸自は導入予定17機のうち、調達済みの14機を千葉県の木更津駐屯地に暫定配備し、移駐先の佐賀市で駐屯地を建設している。

 住民の納得がなければ、そうした配備は進まないだろう。だからこそ陸自オスプレイの飛行再開も、米軍の調査結果を踏まえて独自に慎重に判断すべきではないか。搭乗するのは日本の自衛官だ。防衛省は判断に至るプロセスをもっと丁寧に国民に説明する必要がある。

 屋久島沖の事故でもまた、日本側による原因究明はできなかった。日本側が機体の残骸を回収しても、米側に引き渡さざるをえなかったためだ。過去の米軍機事故と同様に、日米地位協定が日本の捜査権を制限した。

 地位協定は、米軍機が日本の民間空港に着陸することも認めている。中国との緊張関係を背景に九州の空港への着陸が相次いでいる。オスプレイの飛行が再開されれば、熊本空港への飛来が増えることも考えられる。事故の危険性と無縁な場所はない。