日産の下請法違反 中小の苦しみ、軽視するな(2024年3月10日『茨城新聞・山陰中央新報・佐賀新聞』-「論説」)
立場の弱い下請け業者に負担を押しつけ、自らの利益を膨らませて胸が張れるのか。
日産自動車が、部品メーカー36社への支払いを不当に減額していたとして、公正取引委員会(公取委)から再発防止の勧告を受けた。
日産は事実関係を認め、確認された2021年1月から23年4月までの約30億円分を返還したという。1956年施行の下請法では最高の認定額となる。
下請法は、親会社に取引を打ち切られることを恐れ、減額を拒めない弱い立場の業者を守ることが目的だ。日産の行為は、優越的な立場を利用して不当な取引を強要したと言われても仕方なかろう。法に触れる行為を、断じて許すわけにはいかない。
折しもデフレを抜け出すために、労使が足並みをそろえて大幅な賃上げを目指す今春である。歴史的な円安を追い風に、過去最高益をたたき出す輸出型大企業が相次ぐ一方、その下請けの中小企業は原材料高に苦しんでいる。
製造コストの適正な価格転嫁を認めなければ、円安の恩恵は中小には行き渡らず、大企業にだけ集中する。それでは日本全体の賃上げにつながらない。
価格転嫁の重要性は、経済界の共通認識だった。日産には自己中心的な企業風土があると思わざるを得ない。
下請けいじめの問題は16年にも取り沙汰されている。大企業が下請けに対して一律の値下げを強要する商慣習を改めるよう求める政府に対し、日本自動車工業会(自工会)は改善に向けた自主行動計画策定の方針を表明した。
その旗を振った自工会会長は日産の西川広人副会長(当時)ではなかったか。当該企業がルールを順守しないとは開いた口がふさがらない。日本を代表する自動車メーカーの名が泣いている。
あろうことか日産は今月4日に問題発覚した後も会見を開いていない。ホームページなどにも勧告を謝罪する広報が見当たらないのはなぜか。
日本商工会議所の小林健会頭が「極めて遺憾。社会的影響が大きく、トップの説明責任がある」と注文を付けたのも当然だろう。日産はきちんと説明と謝罪をするべきだ。
こうした行為が少なくとも1990年代には始まっていたとみられることも見逃せない。下請けを踏みつけるようなあしき商取引はこの際、一掃させなくてはならない。
厳しい国際競争にさらされる自動車業界全体の問題という見方もある。マツダも過去2回、同様の下請法違反の指摘を受けている。下請けを圧迫する違法な取り決めや圧力がなかったか、自動車各社に対して自主的な調査と公表を改めて求めたい。
日産だけでなく、トヨタ自動車グループでも品質や安全検査の不正が相次ぐ。業界の法令順守意識が、巨額の利益を上げ、配当を増やせばいいという企業風土に毒されているとしたら看過できない。
経済産業省や公取委はもっと厳格に対応すべきだろう。社名公表や是正勧告だけで十分だとは到底思えない。(共同通信・川上高志)
米軍オスプレイ 主権なき日本があらわに(2024年3月10日『信濃毎日新聞』-「社説」)
米軍が輸送機オスプレイの飛行停止措置を解除した。
昨年11月末、横田基地の米空軍オスプレイが鹿児島県の屋久島沖で墜落した。米軍は1週間後、世界各地に配備する470機の飛行を止めていた。
防衛省は、屋久島沖の事故原因となった部品の不具合が特定されたと報告を受けたという。が、具体的な内容は米国法の制限があるとし、明かしていない。
木原稔防衛相は「米軍から詳細に報告を受けた。合理的と納得している」と述べている。何を言ったところで、肝心な原因を伏せたのでは説得力はない。
全搭乗員の死亡が認定された屋久島沖の事故直後は、海上保安庁や漁船が行方不明者の捜索に当たり、機体の一部を回収した。
しかし、日米地位協定の合意議事録にある「日本国の当局は、米軍の財産について、捜索、差し押さえ、検証を行う権利を行使しない」が壁となり、原因究明の主体は米軍に移っていった。
日本政府がオスプレイの飛行停止を要請しても、米軍は従わなかった。もともと部隊運用に立ち入る権限を持たない。
今回も防衛相が、飛行再開を焦る米軍からの一方的な要請を受け入れざるを得なかったのが実情ではないのか。
今後、機体の点検や整備の頻度を上げる対策を取りつつ、日米で飛行再開時期を調整するとしている。日本政府の制御が効かない実態があらわになっては、オスプレイに日常を脅かされている人たちの不安は拭えまい。
「原因究明と改善策について、再開前に米側から説明を受けなければならない」。オスプレイが集中する沖縄県の玉城デニー知事が強調したのは当然だろう。
オスプレイの死亡事故は後を絶たない。昨年は日本でも緊急着陸が相次いだ。欠陥が指摘され、米軍自体が調達をやめた機種であるのを見過ごしてはならない。
岸田文雄政権は米国の戦略に従って防衛費を膨らませ、軍備の拡充に躍起になっている。
命の危機を感じる―。日夜問わず住宅地の真上をオスプレイが飛び交う基地自治体の人々の切実な声だ。政府が最優先すべきは、主権が及ばず、傍若無人な米軍の行動を制止できない地位協定の抜本改定にほかならない。
防衛省は「地元の理解は飛行再開の条件でない」と早速、予防線を張る。安全な暮らしを望むまっとうな訴えを、これ以上ないがしろにしてはならない。
オスプレイ飛行再開へ 米の意向優先許されない(2024年3月10日『琉球新報』-「社説」)
鹿児島県・屋久島沖で昨年11月に墜落し、全世界で飛行停止となっている米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイについて、在日米軍と防衛省は8日、停止措置を解除すると発表した。飛行再開の時期は今後調整し、再開前には関係自治体に通知するという。
しかし、事故原因は「特定の部品の不具合」によるものと説明しただけだ。乗員8人全員が亡くなった痛ましい事故にもかかわらず、詳しい原因を公表しない一方、事故機固有の不具合ではなく他の機体でも起こり得ると明らかにしている。
飛行停止前、沖縄県内では住宅地の上空をオスプレイが飛行していた。墜落事故機と同様の不具合が起こり得る可能性があるオスプレイの飛行再開は容認できない。県民、国民の安全を保障するためにもオスプレイの国内撤退を決断すべきだ。
防衛省によると、墜落について米軍による調査などから「オスプレイの設計・構造に問題はない」として、(1)異常探知システムによる点検と維持整備の頻度の増加(2)航空機の整備記録の確認(3)通常時・緊急時の搭乗員の手順更新(4)運用計画の更新―といった安全対策を施すとしている。
これらの対策は、点検体制強化や不具合の早期発見、発見時の対策にとどまるものだ。再発防止への根本的な解決策とは言い難い。
22年6月に米カリフォルニア州で墜落し5人が亡くなった事故では、米海兵隊はエンジンとプロップローター(回転翼部分)をつなぐクラッチの作動不良が事故原因だったと説明している。
防衛省担当者が、今後も不具合が起こる可能性を認めている以上、やはり機体の構造に問題があるのではと疑わざるを得ない。
なぜ、事故原因を明確に公表しないのか。
木原稔防衛相は9日の臨時記者会見で、不具合が発生した部品の名称や不具合の詳細を伏せる理由を「米国内法の制限」と明らかにし、「大きな事故なので米国内での訴訟の可能性もあることから、つまびらかにできない」と述べた。訴訟リスクという米軍側の都合を受け入れてよいのか。
木原防衛相は、飛行再開を急ぐ理由を問われ「米側の事情もある」「在日米軍としては島しょ防衛、あるいは日本の安全保障に資するために必要性がある」と述べた。ここにも練度優先という米軍の意向を丸のみする日本政府の従属姿勢が浮かび上がる。
飛行再開に当たっては、関係自治体に通知するというが、果たして首長らの理解が得られるだろうか。
「特定の部品」の詳細など事故原因や抜本的な再発防止策が示せない以上、安全性への懸念は払拭できず。飛行を再開するべきではない。日本政府は米側の事情ではなく、住民や乗員の安全を最優先し、国内からのオスプレイ撤退を毅然(きぜん)と表明すべきだ。