原発処理水を放出しても「汚染水」の発生は続く ゼロへの道筋を示せない東京電力 漁業者「不安増している」(2024年3月11日『東京新聞』)

 
 世界最悪レベルの東京電力福島第1原発事故から11日で13年。事故当初から対応に追われてきた汚染水問題は、昨年8月に浄化処理した水の海洋放出が始まり、貯蔵タンクの限界という危機は回避された。ただ、毎日発生する汚染水を止めない限り、放出は続く。東電は「汚染水ゼロ」の計画を示しておらず、終わりなき放出となりかねない。(小野沢健太)
 
 
 「海洋放出に反対であることはいささかも変わりはない」。処理水の放出が始まった昨年8月24日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は会長声明で政府や東電を批判し、「全国の漁業者の不安な思いは増している」と懸念を示した。
 全漁連の不安は的中し、中国が日本産水産物の輸入を全面停止。これまでに東電が支払った風評被害の賠償額は40億円超に上る。東電の小早川智明社長は放出開始時、「理解を得る取り組みは、廃炉が終わったときに結論が出る」と述べた。処理水の放出を含め、事故収束作業を完了させることが「理解」につながるとの考え方だ。

◆効果がはっきりしない凍土遮水壁

 汚染水が増えないようにするには、原子炉建屋への雨水や地下水の流入を止めることが必要だ。東電は、建屋周囲の井戸から地下水をくみ上げて流入を抑えたり、地面を舗装して雨水が地中から入るのを抑えたりしている。1~4号機の原子炉建屋周囲(全長1.5キロ)の地中に氷の壁を造り、地下水が建屋側に流れることを抑える凍土遮水壁もあるが、効果があるのかははっきりしない。
 東電が今後の主な具体策として示しているのは、2028年度までに実施する地面の舗装と、3号機建屋地下のすき間を埋める工事の二つ。舗装は、凍土壁の内側で現状は50%の施工面積を80%へ広げる計画だが、建屋近くにはさまざまな構造物があり、それ以上の工事ができるかは不明だ。
 
処理水の海洋放出が続く東京電力福島第1原発=1月12日、福島県大熊町で、本社ヘリ「おおづる」から

処理水の海洋放出が続く東京電力福島第1原発=1月12日、福島県大熊町で、本社ヘリ「おおづる」から

◆すき間に充填剤、地下水流入止められるか

 建屋地下のすき間は、原子炉建屋やタービン建屋などの建屋間で工事。地下のすき間から地下水が入り、配管の貫通部などから建屋内に流入していると想定し、すき間部分を10メートルほど掘って充塡(じゅうてん)剤で埋める。
 ただ、実際に地下水がどのように建屋内に入っているのかは分かっておらず、すき間工事の効果が発揮するのかは見通せない。
 これらの対策で、22年度に1日約90トン発生した汚染水を、28年度には約50~70トンまで減らす計画。その先は数値目標がない。東電は将来的な対策として、建屋地下の周囲を鉄板で囲って地下水が入らないようにする工事などを模索するが、建屋近くで大規模工事ができるのかも分からない。

◆「2051年までの放出と廃炉の完了」絵空事になる恐れ

 原子力規制委員会が策定する事故収束作業の目標工程でも、33年度までに建屋地下のすき間を埋める工事を1~3号機で終わらせることなどを盛り込むのにとどまる。政府や東電は51年までの放出と廃炉の完了を掲げる。だが、「汚染水ゼロ」への道筋が示せない現状では絵空事でしかない。

 福島第1原発の汚染水 1〜3号機内の溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れた冷却水が汚染水となり、建屋に流入する地下水や雨水と混ざって増える。汚染水は除染設備で放射性セシウムストロンチウムを低減した後、多核種除去設備(ALPS)でトリチウムを除く大半の放射性物質を除去して貯蔵タンクに保管。処理水に大量の海水を混ぜ、トリチウム濃度を国の排水基準の40分の1未満にした上で、沖合約1キロの海底から放出している。